3 / 10

見付かりました

  とんだ登校初日だったが、無事、オレは帰宅出来た。 「只今」 そう言っても、誰も居ない事を知っているオレは冷蔵庫からラップが掛かった昼食を取り出す。 「相変わらずだな、真弥さん」 一食に五十品目を喰うと言う食習慣を律儀に守る辺りが、と。 小鉢に小分けされたおかず一つ一つに掛かっていたラップを一つ一つ剥がし、「頂きます」と合掌して喰い始めた。 おかずだけでお腹一杯になりそうな昼食をオレはペロリと平らげ、「ご馳走様でした」とコレまた合掌して喰い終える。 喰い終わった食器は食器洗い器と言う文明の力に託し、オレは外出した。 目的は、食料調達。 後、引っ越して来たばっかりだったから日用品の買い足しもする為にだ。 「ええと、確か…」 この辺りに商店街があったハズと帰宅途中で発見した通りを覗き込んでいると、後方から「あっ、Ωちゃん」と聞き覚えのある声がしたと思ったら背後から抱き締められた。 思わず、「何するんですか?」と振り返ったら同じクラスの緑川だった。 「な、何で解ったんですか?」 オレがそう言うと、「え?Ωちゃんの匂いがしたから?」と緑川はきょとんとした顔でそう言う。 オレが「匂い…ですか?」と言うと「うん、Ωちゃんの匂い♪」とそう返され、オレは自分の匂いを嗅ぐけど解らない。 そういや、木下さんも人ソレゾレ匂いがあるって言っていたけど、オレってどんな匂いなんだろうと首を傾げる。 色々と匂いを嗅いだら解るのかなと、緑川を見た。 「何?Ωちゃん?」 オレはそんな緑川を他所に、緑川の匂いをクンクン嗅ぐと緑川が更に「何?何?」と不思議そうな顔をする。 αの女子生徒もそうだったが、緑川の身体からも矢張り柔軟剤とシャンプーの匂いしかしなかった。 もしかして、この柔軟剤やシャンプーの匂いの事? そう思ったが即行で違うだろうと否定し、オレは、「明日、木下さんに詳しく聞いてみよう」と結論を出した。 「緑川さん……」 オレは何事もなかった様にそう言い、席替えの一件もあったから変ないがみ合いに巻き込まれない様にと警戒線を張る。 今更感はあるが、このスリスリとされる感覚はどうも苦手だ。 「すいません、離して頂けませんか?」 必要以上にスリスリと頬擦りをしながら絡んで来る緑川にそう言い、オレが逃げ出した事はもう怒ってはいないと言う証言だけは確りと得て、「オレ、先を急いでいるので…」とそう付け加えて緑川を力一杯引き剥がす。 腕力だけで言えば、多分、緑川にも負けていないハズだと。 案の定、緑川をオレから引き剥がす事に成功したオレは上機嫌で、明日学校でと手を振って軽やかに緑川と別れた。 「否、運動能力や学習能力がαやβに比べて劣っていると言われたが、そうではないようだ」と浮かれていたら、「あ、神谷くん」と言う声と共に同級生の女子生徒達に囲まれてしまっていた。 「きゃ、可愛い♪」 「他の男子も、神谷くんくらい小さかったら可愛いかったのに」 等とオレの劣等感をさらりと撫でられる。 「ええと、ソレは…」 「馬鹿に何てしていないよ。神谷くんは可愛いって褒めて上げてるの、解る?」 ニヤニヤと不気味に嗤う女子生徒達にとてつもない恐怖を感じたから、「……い、苛める?」とつい、本音がぽろりと出た。 だが、「苛めないよ。ほら、此方に来て」とそう言われ、女子が好きそうな可愛い小物屋さんに無理矢理押し込められてしまった。 可愛い髪飾りや綺麗な櫛(クシ)が置いてある場所まで引っ張られ、「コレ、付けて見て」と立葵の花が付いた髪飾りを手渡される。 こう言うモノを付けた事がないから、どう付けてよいか解らず、「付け方が解らないので手渡されても…」困りますと言えば、「ヤダ、可愛い♪」「私が付けて上げるわ♪」等と、女子生徒達は挙(コゾ)ってオレが手にしている髪飾りを奪い合おうとしていた。 オレは内心、こんなの付けられるかっ!!と思っていたがそう口にしないで正解だったとほっと息を吐く。 だが、嫌悪感が立ち込めているこの状況下では安息だとは言えず、籤引きで学習した事を生かす。 「ソ、ソコの君にお願いしても良いですか?」 丁度、オレに付けようとしていた髪飾りを持っていた女子生徒に向かってそう言い、権限を与える。 そうした方が逆に反感を買わないと、学んだから。 ソレに、「うわあ、良いな」「羨ましい」と言う声が上がるが、「その後はコレも付けてくれる?」と順番に並ぶように次々と付けて欲しい髪飾りが並べられて行く。 すると、「じゃ、コレは私が♪」「あ、私はコレを付けて良い♪」等と、勝手に順番が決まって行き女子生徒達のご機嫌度も上がってくれるから。 更にコレをこんな風に応用すれば、「じ、順番にお願いします」とにこやかに言うと、女子生徒達のご機嫌は最大値まで登り詰めて意外にも早く解放されると言う事も学んだ。 「んじゃ、神谷くん、バイバイ」 「また明日ね♪」 口々にそう言い、女子生徒達は蜘蛛の子を散らす様にさっと去っていった。 コレが一番似合っていると言う髪飾りを一つ買わされたが、五百円程度ならお茶代だと思ってオレも女子生徒達に手を振り返した。 似合っているのかは解らないがアレだけの女子生徒が満場一致で似合っていると言うから、多分似合っていると言う事でオレはその髪飾りを付けた儘買い出しに向かった。 そうしたら、魚屋さんを始め、お肉屋さん、八百屋さんと足を運べば可愛いお嬢ちゃんにと沢山おまけをして貰い、こう言うのも悪くはないなとオレは浮いたお金でアイスを買った。 意外な所で、食費の軽減方法が見付かりました。  

ともだちにシェアしよう!