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幸せ、とは

結婚だとか、家庭だとかに憧れていたのはいくつの頃までだろう。 紫煙の中にふと浮かんだ疑問が、どこから湧いてきたものなのかは知っている。今朝、部下の女性が、彼氏からついにプロポーズされたと嬉々として報告してきたのだ。 『来年の春に、籍を入れるんです』 うっとりしたその口調に独身の佐伯が感じたのは、羨ましさよりも安心感だった。一時期、佐伯に片恋していたその部下が、ちゃんとした幸せを見つけられたことに安堵したのだった。 良かったね、お幸せに。心からの言葉を贈った佐伯だったが、途端に部下は真顔になって囁くように言った。 『課長も、幸せになってくださいね』 『……はは、善処するよ』 苦笑いで返すと、部下はやれやれと肩をすくめて仕事に戻っていった。自分の言葉が信用されていないのは明らかだった。 ふぅ。呼吸と共に多量の煙を吐き出す。 「幸せ、ね……」 呟いた声は無人の喫煙室にもわんと響いた。

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