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犯した罪

喫煙室からオフィスに戻った佐伯は、残っていた社員に「お先に」と声をかけて退社した。ビルを出ると、冷たく刺すような空気が佐伯を取り巻く。思わずぶるりと体を震わせてしまったが、冬の空気が佐伯は嫌いではなかった。自分の身が浄化される気がするのだと言ったら、言った相手には笑われてしまったのだけれど。 『空気ごときで浄化されるほどの罪なんて、最初からやってないようなもんでしょ』 それより、夕飯どうします?と訊いてきた彼は、佐伯の胸の痛みには気づかなかったのだろう。空気では浄化されないような重い罪を、佐伯が彼に犯していることも。

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