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別れ話
「……で、話ってなんすか」
コーヒーの淹れられたマグカップを目の前に置いた途端、橋本は言った。佐伯はぐっと息を詰める。言いたい。言いたくない。二つの相反する思いが渦巻く。
それでも意を決して「あのさ」と言うと、それを遮るように橋本が口を開いた。
「別れ話なら、さっさとしてほしいんですけど」
「……え?」
佐伯の顔を見ずに橋本はまくし立てる。
「わかってましたよ、一回り以上も離れたオレと佐伯さんじゃ、釣り合わないってことは。オレはやっと来年就職するガキだから話も合わないし、いっつも奢ってもらってばっかだし。毎日部屋に上がりこんでメシ作るのもほんとはうざいって思ってたんでしょ。優しいあんたはオレに気ぃ使って、自由に遊びにも行けないですしね……ま、それ狙ってたのはオレですけど」
「橋本くん、あの、」
「好きでもないのに、今まで付き合ってもらってありがとうございました。ちゃんと大人しく出て行きますから、安心してください」
「橋本くん、待って!」
「なんですか、これ以上言うことでも……」
「こっち向いて」
佐伯は立ち上がると、橋本のあごを掴んで強制的に自分のほうへ向けた。
「なんで、泣いてるの」
橋本の目からは涙が伝っていた。
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