どうにか下半身が収まり ぼくも浮き輪を持って海に向かう 「おお！ユキおっせえよー！」 『ごめんごめん！』 と、ぴちゃり、と 足からゆっくり水に付ける 『つめたーい、きもちい！』 と、足首辺りまで水が来るところでぴちゃぴちゃと足をつけて水に慣れる しかし バシャバシャと日向に水をかけられて 一気に膝くらいまでの所まで入って日向を追いかける 「ユキ泳げねえの？浮き輪ずっと持ってっけど」 『えっと、』 「日向、紗雪おもらししたから浮き輪で隠してんだよ」 と、平子先輩が横から口出してきて 『ちがうし！』 と、バタ足をして先輩に水をかける 「え？ユキ…おもら…」 『ち、ちがうよ！日向！本当にぼく泳げないだけだから！』 と、さっきじんわりしたシミはもう乾いたし もう海水に濡れてなんにも無くなったし！ だいたい出てないし！ あれは汗みたいなもんじゃん… 白いヤツとか！もちろん本物のおもらしもしてないし！ と、必死に言い訳をする 「おお、やっぱり泳げねえのか」 『……あ、』 と、先輩に言われた言葉の訂正に必死で ついつい本当の事を言ってしまった 『あー…あれ、きさきと吹雪先輩は？』 「あっちで遠泳してるぞ」 『うっわあ、ストイック』 と、さりげなくごまかす 「ユキ、本当に泳げねえの？」 『ぼ、ぼく…プールとかあんまり出ないから……泳いだことあんまりなくて』 「あー」 「生理だからね」 『だから僕は男だって！』 「でも泳げねえのって普通に困んねえ？ちょっと練習するか？」 『い、いや、海は波とかあるし』 「顔は付けられるか？」 『えっと、海水しょっぱいから顔付けたくない。日焼け止め取れちゃうし』 「いや、メイクくずれ気にしてる女子かよ」 『違うって！』 「しゃーねえから引っ張ってやるよ！ユキ、しっかり浮き輪に捕まっとけよ！」 『うん！』 と、浮き輪に捕まると 日向が僕の浮き輪に手をかけ 「行くぞー！」 と、勢い良く引っ張ってくれる 『ひゃ、っ、ははっ！すごーい！』 　 顔にもぴしゃぴしゃ水がかかるけどそれも気持ちいい 『ひゃはっ、ひなたっ！もっともっと！』 「よーし！」 と、日向は僕がもっとっていうから さっきより勢いをつけて引っ張ってくれて さっきよりすごいスピードがでて 気持ちよくて ぎゃはぎゃはと楽しくなって笑う うわ、海って楽しいんだ、と思ったのもつかの間 ちゅるんっと濡れた手が滑って すぽんっと浮き輪から抜けてしまう 『わっ！ぎゃっひ、日向待って！』 「あれ？軽くなっ…ってユキ！」 『おっ、おちっおぼれっ』 もがもがもがいて溺れないようにするけど どんどん沈んで鼻とか口から水が入りそうになる 『もがっんっ、ぅっ』 「ユキ！」 溺れちゃうかもって 頭に過ぎったけど すぐに身体を掴まれて海から顔が出るところまで引かれる 「お前本当にバカだね」 『げほっ、ごほっ……っひらこせんぱい、』 と、僕の脇の下をがっちり掴んで溺れないように支えてくれてて 「ひなー！浮き輪！」 と、ちょっと離れた日向に平子先輩はいうと 日向がこっちにバシャバシャと泳いでくる 「鼻水出てるよ。きたない」 『き、きたないって、しょうがないじゃん、溺れたから、』 と、恥ずかしくてすぐに手で拭いて隠す 「わりー、ユキ大丈夫か？」 と、日向が戻ってきてくれて 浮き輪を上から被せてくれて とりあえず安心する 「お前ら本当にはしゃぎすぎ。本当にバカ」 『……ごめんなさい、』 「…悪かったよ、気をつける」 「……俺あっち戻るから。はしゃぎすぎんなよ」 『ぼくも、戻る、』 平子先輩怒らせちゃった、と 焦って平子先輩を追いかけようとしたけど 「ユキ」 と、日向が僕の浮き輪の紐を掴んだ 『どうしたの？日向』 「行くなよ」 『え？』 「ユキ、ヒラコの事好きなのやめるって、言ってただろ」 『え、うん、そうだけど、』 「だったら、…ヒラコの所、行くなって」 『え…うん、そ、うだね、うん』 そうだった、そうだったんだ、 日向に昨日言ったんだった 平子先輩の事好きなのやめるって 友達がやっぱりホモとか きっと日向気使っちゃうだろうから やめるって言ったんだった 『ごめんね、日向』 「…いや、俺の方こそ、余裕無いこと言って情けねえよな。お前溺れたの助けたのもヒラコだし」 『…ごめん、日向。遊ぼ。うん、きさきとふぶき先輩捕まえにいこ』 と、浮き輪にしっかり掴まって 遠泳している2人を捕まえに行くことにした そうだ、せっかく5人できたんだ 夏の思い出作らなきゃ