6 / 114
第1話 那由太、お迎えされる・6
何しろ一千万円分の仕事だ。具体的に何をするのかは電話した時もよく分からなかったが、犯罪でないのなら例え過酷な肉体労働でも、何だって頑張る。
「うんうん、ほんと可愛い子だよね。目が大きくて、ふわふわしてて……」
藤ヶ崎さん改め炎珠さんが、ニコニコ笑って俺に言った。
「ふ、ふわふわ……?」
「那由太くん、もっと君のこと教えてくれるかな。趣味とか特技とか、何でも良いよ」
「趣味は、スマホのゲームとかで……特技は、……特になくて」
「ぶふっ──!」
黙って俺を見ていた刹さんが、急にくしゃみのような咳のような変な声を出した。口元に手をあてて顔を伏せている。
「だ、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ。続けてくれ」
恐らくは俺の「つまらない人生」に笑いを堪えられず噴き出したのだろう。
「はい。……ええと後は……好きな物は、甘い物です。前やってたバイトはコンビニの店員で……」
「オッケー、魅力は充分に伝わったよ」
炎珠さんが片手をあげて遮り、手に持った書類のような物に何かを書き込んだ。
「春沢那由太くん……は、本名だよね? 那由他から取った名前なのかな」
「そうなんです。親は無限と那由他で迷ったらしいんですけど、まだこっちの方が人名っぽくて良かったかなって」
どうでも良いことを喋る俺を眠たげな目で見つめながら、刹さんがソファにもたれて脚を組んだ。そうして何かのうわごとのように、口の中で俺の名前を反芻している。
「春沢那由太か。那由太……ナユタ……なゆ、た……。……よし、にゃん太」
「にゃん太っ?」
「気にするな、こっちの話だ」
めちゃくちゃ気になるけれど、今は俺のあだ名よりも仕事の話だ。
「……俺、こちらで働けますか? その……借金の代わりに」
思い切って訊いてみると、赤い髪をかきあげた炎珠さんが画面を覗いて柔らかな笑みを浮かべてくれた。
「もちろん、そういう約束だったからね。君の借金は今日にでも返済できるよ。自己破産するよりずっと良いでしょ、安心して」
「あ、ありがとうございますっ! 俺、頑張ります……!」
「よし。それじゃあ、ビジネスの話だ」
ソファからおもむろに立ち上がった刹さんが、未だ眠たそうな目で俺を見下ろしながら言った。見た目はスリムだけど立つと意外に大きくて、色味的にも黒ヒョウみたいだ。
「お前の仕事内容は、俺が撮る動画や写真の撮影アシスタント。会員制サロンへの参加と準備の手伝い。専用アカウントでウェブサイトを作って、定期的にブログの記事なんかを書いてもらう。基本的に外へは出ず、この家の中での仕事になる。構わないか?」
「はい。が、頑張ります!」
「給料は仕事ぶりにもよるが、まずは固定給で月に五万くらいか。少なく思えるかもしれないが、後は売上によって歩合が発生するし、お前の生活の面倒はこちらで全て見る。どうだ?」
「全然問題ないです」
ともだちにシェアしよう!