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第3話 初めてのお仕事?・3
「それじゃあ那由太、これに着替えてね」
朝食が終わってソファの上で脚をぶらつかせていたら、炎珠さんがやってきて俺に服を渡してきた。ようやくパジャマを脱げることになってホッとしたのも束の間、渡されたそれは黒のTシャツにトラ柄のパンツ、それから……ふかふかもこもこの猫耳帽子(トラ柄)だった。
「蒸れそうな帽子だなぁ……」
「コーディネートは基本的に刹のリクエストだから被ってあげてよ。俺はもっとふりふりした可愛い系の方が好きなんだけどね」
ふりふりよりはこっちの方が断然ましだ。俺はその場でパジャマを脱ぎ、渡された服に着替え始めた。
「うん、似合ってる。すっごい可愛い」
「あ、あんまり嬉しくないような……」
「それじゃあ刹が呼んでるから部屋まで行こうか。写真撮りたいって言ってたよ」
「えっ」
「可愛く撮ってもらえるはずだよ。刹は一応フォトグラファーだからね」
こんな格好で写真を撮られるなんて嫌だけど、拒否したところで意味がないことは知っている。俺は先を行く炎珠さんの後にとぼとぼとついて行きながら、これも仕事の内なのだと自分に言い聞かせた。
二階の一番奥、そこが刹の部屋だ。
「入るよ、刹」
「おう」
中は意外にも綺麗に片付いていた。俺の部屋のようなファンシーワールドではなく、家具も寝具も全てがモノトーンで揃えられている。デスクトップパソコンの前に座っていた刹自身がモノトーンみたいな男だからか、パッと見た感じは物凄く絵になっていた。
「似合ってるな、にゃん太」
「あの、にゃん太っていうのやめて下さい。……恥ずかし過ぎます」
「よし、そこのベッドに寝ろ」
無視されてしまったが、写真を撮りたいと言うならさっさと終わらせてもらうに限る。
刹のベッドに腰を下ろして仰向けになると、微かに甘く爽やかな香りがした。刹の体からも感じた香りだ。……昨日のあれを思い出して、少しだけ頬が熱くなる。
「刹、何か手伝う?」
「いや、何もしなくていい。那由太を励ましてやってくれ」
立派な一眼レフを構えた刹が、レンズを俺に向けてシャッターを切った。
「………」
「死体みてえに転がってねえで、少しポーズを取れ」
「そ、そんなこと急に言われても……」
「那由太。それじゃあ片膝を曲げて、カメラを睨むみたいに見てみて」
炎珠さんのアドバイス通りにすると、刹が「よし」と再びシャッターを切り始めた。
その後も背中を反らしたりうつ伏せになったり、四つん這いになったり、炎珠さんに言われて様々なポーズを取らされた。
なるほど確かに大変な仕事だ。報酬が出なかったら絶対に引き受けなかっただろう。
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