32 / 114
第5話 お客さんが来る!・3
それぞれのご主人達が話しているのを横目で見ながら、華深がほんの少しだけ声を潜めた。
「那由太は猫なんだな。俺は一応、栄治さんからはウサギって言われてるんだけど……あんまりウサギ要素はないし、もっとカッコいいのが良かったんだけどね」
「ペットの種類ってそれぞれ決まってるんですか?」
「そうだよ。俺の友達なんかはリスとかフェネックギツネとかいるしね。この辺は完全にご主人達の独断。少し前に一部で『猛獣はペットにならない論争』があったけど、結局はそれぞれの判断に任せるってことで落ち着いたんだ」
俺は単純に名前の語呂から「にゃん太」扱いされているのだと思っていたから、そんなルールがあったなんて驚きだ。割とオーソドックスな設定で良かった。
しかしそう考えると、よく着せられるトラ柄やヒョウ柄はどうなんだろう。同じネコ科ということでまとめられているのだろうか。
トラの子をペットにしているご主人からは邪道扱いされそうだけど、やはりそこも飼い主の判断に任せるということで、そこまで細かいルールはないのかもしれない。
──って、何を真面目に考えているんだ俺は。こんなクラブのルールなんてどうでも良いじゃないか。
「沢山作ったから、幸嶋さんも華深もどうぞ遠慮なく食べてね!」
「やったぁ! 炎珠さんの手料理、これが目的で今日は来たんですよ!」
俺からパッと離れた華深が、嬉しそうにカウンターの方へと駆けて行く。いかにも「可愛がられる」ことに慣れた振る舞いだ。ぶりっ子というよりもペットとしてのベテラン感が強く、妙に感心してしまった。
「ペット同士仲良くできたか」
華深と入れ替わるようにしてやって来た刹が、俺のネクタイを軽く直しながら言った。
「良い人だったから、ちょっとは緊張も取れたよ。幸嶋さんは初対面の時は怖かったけど、こうして話してみると優しそうだし……」
このまま刹達の元で暮らして行くなら、彼らは俺にとって数少ない友人となる。ペットや主人といったものはともかく、良い関係を築いて行けたら良いなと思うのは当然のことだ。
「よし、それで良い」
刹が俺の頭を撫でて満足気に笑った。王様が側近を褒める時のような……若干の上から目線が含まれてはいたが。
ともだちにシェアしよう!