33 / 114

第5話 お客さんが来る!・4

「栄治さん、ローストビーフ食べる?」 「ん。──美味いな」 「やっぱり手料理って良いよね! 栄治さん、こっちのミートパイも美味しいよ、食べる?」 「ん。──外食ばかりで悪かったな」  ソファに並んで座っている幸嶋さんと華深。さっきから華深がせっせと幸嶋さんの口に料理を運んであげている。  主従関係が徹底されているのか、はたまたただのバカップルか。そんなことを考えていたら、ふいに幸嶋さんが俺を見て言った。 「しかし、那由太が二日目の時点であんな動画を撮らせるとはな。刹、一体どんな躾けをしたんだ?」 「なっ、何でいきなりそんな話を──」  幸嶋さんの発言に動揺し、俺はパスタの乗った皿を手にしたまま一瞬ソファから尻を浮かせた。 「俺は躾けなんて殆どしてねえですよ。那由太のアレは全部天然です」 「ちち、違いますよ幸嶋さんっ、俺は二人に借りがあるから仕方なく……!」 「ええ? でも那由太、恥ずかしがりながらめちゃくちゃ気持ち良さそうにしてるよね?」 「炎珠さんっ!」 「ははは、仲良さそうにやってるじゃないか。俺も仲介に入った甲斐がある」  ──何なんだ、もう。  両サイドに座った「ご主人達」のニヤニヤ感満載の視線に腹が立つ。俺は赤くなった顔を隠すため俯き、フォークに巻いたトマトパスタを頬張った。  その後は他愛のない話で四人が盛り上がり、俺も何か話を振られれば答えるという形で会話に加わった。  初めの緊張感はだいぶ和らいではいるが、どうにも「あの動画」を幸嶋さんに見られたことへの恥ずかしさが払拭できない。炎珠さんも刹も、よく平然と喋っていられるなと思う。 「栄治さん。俺、那由太と部屋で遊んできてもいい?」  華深が幸嶋さんの膝に両手を置き、甘えるような声で言った。 「那由太が良いって言ったらな」 「俺は構いませんけど……」  やった、と華深がソファを降りて俺の手を取る。 「仲良く遊ぶんだよ、那由太」 「喧嘩するな」  炎珠さんと刹のペット扱いというより子供扱いな言葉を受けながら、俺は華深と共にリビングを出て二階の部屋へと向かったのだった。  ──遊ぶって言われても、ゲームも何も持ってないからなぁ。 「おお……那由太の部屋、思いっきり炎珠さんの趣味だね」 「えっ、分かるんだ?」 「そりゃ分かるよ。炎珠さんの『可愛いもの好き』は昔からずっとだもん」  言うなり、ふわふわピンクのベッドの上にダイブする華深。両サイドフリル付きの枕に頬を寄せ、ピーチ起毛の柔らかい感触を楽しんでいる。 「あー、気持ち良い。愛されてる証拠だね、那由太」 「これが証拠なのかどうかは分からないけど……」  俺もベッドに腰を下ろし、改めてファンシーな自分の部屋を見渡した。百歩譲って俺が女の子だったとしても、やはりこの部屋はやり過ぎだ。  溜息をつく俺を見て笑いながら、華深が言った。 「炎珠さんて昔から、自分が気に入った子を『可愛い物で囲みたい』っていう変な癖があるんだよね。栄治さんいわく、それがあの人の愛情表現なんだって。どうしてそういう思考になったのかは知らないけど」 「やっぱり人とは少し変わってるんだなぁ」  着飾らせたり髪の毛を弄ったりするのは分かるけれど、自分ではなく対象の部屋を好きな物で埋め尽くしたい気持ちというのは謎過ぎる。  この部屋が炎珠さんのドールハウスだとしたら、俺は彼が操る人形ということだろうか。

ともだちにシェアしよう!