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第11話 夏祭りは危険がいっぱい?・5

「………」  ど、どうしよう。  完全に炎珠さんを見失った。  今俺の目の前にはたくさんの人達が楽しそうに笑いながら歩いている風景が広がるだけだ。  氷の方へ行けば刹がいるかもしれない──けれど、人が多すぎてそれすらも難しい。  ちょうど神社の方で行われていた祭りの演舞か何かが終わったため、今だけ急に人がなだれ込んで来たのだ。もう少しこのまま待っていれば、炎珠さんが見つかるかもしれない。 「ていうか連絡すればいいのか──って、ダメだ!」  写真撮る時に邪魔だからって、スマホが入った巾着袋を一時的に炎珠さんに預けておいたんだ。  大声を出しても喧騒にかき消されて炎珠さんには届きそうにない。現にいま俺の名前を叫んでいるであろう炎珠さんの声も全く聞こえないし。 「仕方ない、ちょっとだけ待つか」  思った、その時── 「お兄さん、一人?」 「………」 「君だよ、白甚平のお兄さん」 「え?」  肩を叩かれる感覚があって振り返ると、そこには見知らぬ顔の二人の男がいた。明らかにチャラそうな人達だ。 「いえ、連れが二人います。もう来ると思います」 「そっか。それじゃあ友達が来るまで、ちょっと俺達に付き合ってよ」 「嫌です!」  こういう時はきっぱり断ること、と前に見た犯罪特番でやっていた。「いいです」や「大丈夫です」は聞きようによっては肯定と捉えられ、後々「合意を得たと思った」と主張されてしまうからだ。 「大丈夫、怖いことしないから」 「ちょっとお小遣い借りて、ついでにお互い良いことするだけだよ」 「嫌だ! 放せ!」 「いいからいから」  二人に両腕を掴まれ、強引に引きずられてしまう。 「た、助けて!」  叫んだものの、周囲の反応はない。というのもあちこちに友人に支えられている酔っ払った若者がいたりして、俺もそんな酔っ払いの一人だと思われているらしい。 「炎珠さん! 刹!」  公園の外に出され、そのまま路駐していた黒いワゴンに押し込まれる。ガラスにはスモークが貼ってあり、中で何が起きたとしても祭りが続いている限り誰も気付かない……。 「そんな怯えなくて大丈夫だって」 「女の子と、君みたいな可愛い男の子には俺ら優しいから」 「………」  必死に頭を働かせ、この状況から逃れる術を考える。  ──あ。  一瞬の閃きに賭け、俺は広いシートに倒れたまま「ふふ」と薄く笑った。 「ほら、君も期待してたんじゃん。これはレイプじゃないよ、合意の遊びだよ〜」 「ちょっとがっかり。嫌がってた割にビッチだったってことかよ?」  勝手なことを言いながら、男が俺の甚平の紐を解く。 「まあいいじゃん、タダなら。今日は男の子の気分だし」 「俺は女の子が良かったけどなぁ……まあいいか」  そろそろ良いかな。  上手くできるか不安だけど……。 「おい、お前ら」  俺は脱がされかけた甚平の袖から自ら腕を抜き、倒れた上半身を起こした。 「お前ら、誰に手ぇ出そうとしてるか分かってんのか?」  突然の俺の言葉に、男達が目を丸くさせる。

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