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第11話 夏祭りは危険がいっぱい?・6
そんな二人によく見えるよう、俺は男達に背を向けた。
「あっ!」
「う、嘘だろ……!」
ああ良かった、期待通りの反応してくれて。
「お、おお前、何者……?」
「その墨……」
えーとえーと、と頭の中をフル回転させる。
確か昔見た映画では……
「俺は三代目藤ヶ崎組の舎弟頭、春沢那由太だ。……てめえら、この背中の龍を満足させられるなら相手してやるよ」
き、決まった……! ……多分。
「す、すいませんでしたっ!」
「失礼しました、許して下さいっ!」
「あ、やらないの? そんじゃ俺は組長と叔父貴の所に戻るけど……」
「ど、どうぞどうぞ。お気を付けてお戻り下さいっ」
「本当にすみませんでしたっ!」
車内で土下座する二人を尻目に車を降りた俺は、「そうだ」と車を振り返って言った。
「またお前らが別の人達に同じことしないように、組員に監視させるから。次に悪いことしたら事務所直行だからな」
「に、二度と悪さはしません! 約束します!」
上手くいって良かったと胸を撫で下ろし、俺はふらつく足取りで公園へ向かった。
きっと俺はチョロくて力も弱いから、さっきのような強姦目的じゃないにしても何かのトラブルに巻き込まれるかもしれない──そう思って、刹はナガさんにタトゥーペイントを頼んだんだ。
それが役に立ったのは事実だし助かって本当に良かったけれど、やっぱり怖くて、……今更になって膝が震えてしまう。
「炎珠さん……刹……」
泣きそうになりながら公園広場に戻ると、遠くから俺を見つけた刹が大声で何かを叫び、駆け寄ってきた。
「那由太っ!」
広場はだいぶ人が引いている。氷もどうやら終わったみたいだ。
「せ、刹っ……!」
その胸に飛び込む形で、俺は人目も憚らず刹に抱きついた。
「な、那由太っ。見つかったんだね、良かった……!」
「炎珠さんん……!」
襲われかけた恐怖よりも二人に会えた安堵から、涙と鼻水が止まらない。
「大丈夫か、那由太。はぐれた時に何かあったなら言えよ」
「変な人に変なことされてない? 那由太、酷い目に遭ってない?」
俺が泣いているせいで、刹も炎珠さんも大慌てだ。
俺は鼻を啜り、二人に向かってかぶりを振った。
「大丈夫です。何もされませんでしたよ!」
「ほ、本当か?」
何もされていないのは事実だし、ここであの二人組のことを言ったら怒り狂った刹が奴らを車ごと破壊しかねない。
ここは黙っていた方が良さそうだ……けど、俺以外の被害者が出ないように巡回していたお巡りさんに車のナンバーと二人組の容姿をこそっと伝えておいた。
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