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第11話 夏祭りは危険がいっぱい?・7
「綺麗だね、那由太」
「はい、凄く……」
「蚊には喰われるけどな」
人の少ない河川敷のベンチ。並んで座った俺達は、頭上に広がる夏の星空を見つめていた。
遠くの方で微かに聞こえる祭り終盤の喧騒に、吹く風の心地好い音と、虫たちの綺麗な歌声。
俺は星の光を浴びるように顔を上に向け、目を閉じ深呼吸をした。
「夏祭りなんて来たの、実際、中学生の時以来だよね」
炎珠さんが刹に言って、刹がそれに頷く。
「あの頃はペットを迎えるなんて想像していなかった」
「へへ。那由太が来てくれたお陰で、これからの季節のイベントも楽しめそう」
それは、俺も同じ気持ちだ。これまで毎日ぼんやり生きてきた俺は日々の生活の中でイベントなんて全く意識していなくて、その理由を「大人になったからだ」と思っていた。子供の頃大好きだったアニメに興味が無くなるのと同じ現象だと思っていた。
だけど、こうして同じ時間を一緒に楽しめる人がいると――年齢なんて関係ないんだなと実感する。それは家族や恋人、友人に同僚、色々な形があるけれど。
同じ時間を分かち合える人達がいるって、きっと当たり前のことじゃないから。偶然と奇跡の力で出会えた二人のご主人に心から感謝だ。
「実を言うと俺、上京してから夏祭りに来たの初めてなんです」
「そうなんだ。まあでも、今の子はあんまり友達同士でお祭りとか行かないのかな?」
「それから、甚平を着たのは生まれて初めてだし……タトゥーペイントも初めてで、こうして大事な人達と河川敷で星を見るっていうのも初めてです」
へへ、と炎珠さんが笑った。刹はうちわで顔を扇ぎながら唇の端を緩めている。
「だから、ありがとうございました。色々あったけど、今日は本当にめちゃくちゃ楽しかったです! 刹もありがとう!」
………。
「祭りの帰り道で眠くなるって、完全に子供って感じだな」
「あはは、仕方ないよ。いっぱい食べたし、歩き回って疲れたろうし」
ゆらゆら、刹におんぶされて温かい背中に更に眠くなり、俺は夢うつつの中で重い目蓋を素直に閉じる。
「背中の撮影は明日だね。しばらく消えないんでしょ?」
「ああ」
「……那由太とはぐれた時、何かあったと思ってる? 戻った時、甚平の紐が俺の蝶結びと違う結び方になってた」
「………」
「那由太に訊かないままで良かったのかな?」
「俺達は那由太が決めたことに従うだけだ。こいつが仕返しして欲しいと願うなら俺はどんな手を使っても実行するし、こいつが何もなかったことにしたいと思うなら俺も一切気にしねえ」
「そっかぁ……そうだね」
「さっき河川敷で笑ってただろ、こいつ。色々ひっくるめて今日が良い思い出になってくれてるなら、それで良い」
「……ん! 確かに!」
二人の話は半分くらいしか聞こえてこなかったけれど、二人の優しい声に何だか俺の心まで温かくなるような……幸せと愛情に満ちた気持ちになった。
まだまだ七月の前半。
三人の夏は始まったばかりなんだ。
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