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第16話 ご主人への贈りもの・9
「ぼ、ぼろぼろです……」
「大丈夫、那由太?」
「結局二回ずつヤッちまったからな」
ベッドの上で満身創痍の俺とは逆に、炎珠さんと刹は妙にツヤツヤしている。
俺は炎珠さんが持ってきてくれたグラスの水を一気に飲み干し、少し考えてからベッドの下に手を入れた。
「何やってるの、那由太?」
そこに隠していたのは、小さな箱が二つ。
「ほ、本当はもっとロマンチックなムードで渡したかったんですけど、……早くしないと、今日が終わっちゃいそうなので」
俺なりの恩返しのつもりだった「一日ご主人様」。……だけどそれとは別に、感謝の気持ちを込めたプレゼントだって用意しておいたのだ。
八月になって初めてもらった俺のお給料、五万円。もはや仕事への報酬じゃなくてお小遣いという気持ちで受け取った五万円だけど、何に使うかと考えた時――まずは何を置いても二人への贈り物を用意したいと思ったんだ。
「那由太からのプレゼント! 何だろ!」
「いつの間に買ってたんだ? お前」
「つ、通販で……。バレないように、幸嶋さんちに送ってもらって、隙を見て外で受け取って……」
刹より早く箱を開けた炎珠さんが、中を見てワッと声をあげた。
「ネックレスだ! 可愛い!」
続いて箱を開けた刹が、目を丸くさせてそれを取り出す。
「俺のはブレスレットか」
俺は二人の反応に照れながら、枕の下に隠していたチョーカーを取り出した。
「……へへ、俺は『首輪』です。実はそれ、付いてるスペードのチャームが三人共お揃いになってるんですよ」
炎珠さんの好きそうなアクセサリーで、刹でも付けられそうなシルバーで控えめなチャーム。凄く悩んだけれど三人がお揃いになるようにと考えた時、どうしても身に着けられる物がいいと思ってそれに決めたのだった。
「那由太、ありがとう!」
「悪かねえ」
ぎゅっと抱きついてくる炎珠さんを抱きしめ返し、俺達はニヤニヤと笑いながら刹の反応を見つめた。
「何だお前ら……」
「刹、『悪かねえ』なんて言いつつすっごい嬉しそうに笑ってる」
「う、るせえっ……」
赤くなった刹の頭を炎珠さんが撫で回す。
鬱陶しそうに刹がその手を振り払う。
「那由太、―――」
そうしてこれまで何度も与えてもらった言葉を受けて、俺もまた満面の笑みで二人に抱きつく。
「俺も大好きです、炎珠さん、刹っ!」
*
借金返済を条件に、初めて会う二人のペットになった俺。
それは想像していたような日々の始まりじゃなかったけれど、それよりもずっと楽しくて愛しくて、そして――かけがえのない人生の始まりだった。
「那由太」
大好きな仲間達と笑い合うひと時。
大好きなご主人達と歩み続ける毎日。
「愛してるよ」
左右で強く握っているのは、温かくて優しい大きな手。
これからもずっと手を繋ぎ、三人一緒の未来に向かって軽やかに突き進んで行くんだ。
The End
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