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第2話 花屋の仕事

その日、僕がいつものように鉢植えを運んでいると、スッと悠真さんが手伝いに入ってくれた。 「ユウいいか、こういった力仕事は男の仕事さ。ちゃんとお姉さんを助けてあげないとね」 悠真さんは、いきなり僕の腕を取った。 そして、 「でもユウは華奢だからもっと鍛えないとな」 と両肩に手を添えて言った。 優しくさわった僕の肩へ悠真さんの温もりが伝わった。 誰かに触れられるって、何だが安心する。 僕は、そんな風に悠真さんと一緒に働く事がとても楽しくてなって来ていたけど、それは父とて同じだと思う。 ある日、父が花束のアレンジをしていると、悠真さんが父に話しかけた。 「ナギさん、綺麗ですね」 父は手を止めて、えっ、と悠真さんを見返した。 悠真さんは、はっとして、 「あ、花のことです。とても好きな色合いだったもので……」 と注釈を加えた。そして、続ける。 「でもナギさんも綺麗です。とっても可愛いです」 しっかりと父の目を見て言った。 父は、「ありがとう」と、目を逸らし、嬉しそうに頬を赤らめた。 悠真さんは、とにかく一生懸命に働いてくれる。 父に威圧的になることもなく、また出しゃばることもなく、素直に従順に働いてくれる。 そして限りなく優しい。 だから、当初の心配なんてどこかに行ってしまい、僕はすっかり悠真さんの事が気に入ってしまった。 ただ、そんな悠真さんだけど、日に数回、日差しを手で覆いながら空を仰いで、ぼうっと考え事をしていることがある。 その見上げた横顔は、普段の屈託のない優しい笑顔と対照的にとても理知的だ。 そんな時、僕は悠真さんに声をかけようとしていた言葉を飲み込み、そんな何気ない悠真さんの一面を発見できたことが、宝物のように嬉しく思ったりした。 開店当初は、お客さんも少なく、このままやっていけるのか、父も僕も不安だった。 ただ、店を出すにあたりスポンサーにもなってくれた祖父が言うには、 「固定客が付くまでは、踏ん張りどころさ」 と慰めてくれた。 そんな不安のさなかだったので、悠真さんが来てくれたことで、毎日が楽しく、気持ちが上向きになれた事は、僕達親子にとってどんなに救いになったことか計り知れない。 父は、夕食の時には、今日の悠真さんはどうしたとか、どんな話をしたとか、嬉しそうに話した。 僕は毎日辛く弱々しく沈んでいた父を知っているだけに、 「姉さん、よかったね」 と心からの声をかけた。 「うん。ありがとう、ユウ」 父は、嬉しそうに微笑んだ。 「ところで、ユウ……」 父は僕の顔を見つめる。 「学校のほうはどう?」 父は真剣な顔付きで言った。 僕は答える。 「うん、実はね……」

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