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第3話 学校での事

僕は、学校でいじめにあっていた。 父譲りの小柄で細身の僕は、体を動かすのも苦手だった。 それに内気な性格。 中学からの友達もいない。 いじめられやすい条件が揃っていて、いじめっ子達には格好の餌食だったわけだ。 最初は、「のろま」というあだ名がついた。 一部の男子だけだったのが、やがて男子全体に行き渡り、最終的には女子まで広まった。 僕は相手にせず無視しているうちに、余計にエスカレートした。 机に落書きをされたり、鞄にゴミを入れられる。 そんな陰質な嫌がらせが始まったのだ。 僕は目を閉じて歯を食いしばって耐えた。 父には言えない。 先生に言えば、父に伝わる。 父には、絶対に心配はかけられない。 僕は我慢するしかなかった。 しかし、そんな辛い日常もある事件を境に一転する。 その事件は、一学期が終わりに近づいてきた頃、何の前振りもなくやってきた。 その日のお昼休み、突然、上級生が教室へ入って来たのだ。 クラスは一時騒然とした。 上級生が下級生の教室へ来る事などまず無い。 それに、後で知る事になるのだが、その上級生は、学校ではある有名な不良グループの一人だったのだ。 その上級生は、クラスを見回し僕を見つけると真っ直ぐに近づいて来たのだ。 「お前、花園 優(はなぞの ゆう)だな?」 僕は、無言でうなづいた。 すると上級生は、放課後に旧部活棟へ来るように、と言って去って行った。 一部始終を見ていたクラスメイト達は、小声で囁き合う。 「呼び出しだぞ」 「あいつは何をやらかしたんだ?」 僕は放課後、指定された旧部活棟の一室の扉をたたいた。 中から声が聞こえ、入室すると、数人の男子生徒が待ち構えていた。 僕は、体を押され、腕を掴まれ、気付い時には、後ろから羽交い締めにされていた。 僕はあまりの恐ろしさで声を出せなかった。 「おまえが一年の花園か……なるほど、なかなか上玉だな……」 中央の体格のよい男が舌舐めずりをしながら言った。 「よし、さっそく味見をしてやる」 目くばせをすると、抑えていた男が僕のズボンを脱がし始めた。 僕は、かろうじて蚊の鳴くような声で言った。 「やめてください」 でも、そんなのはお構いない。 中央の男は、下半身裸になった僕を値踏みするように目で舐め尽くすと、自分のズボンのベルトを外しながら言った。 「俺を知っているか?」 知らない。僕は首をふった。 「そうか、まぁ、1年なら仕方ないか。俺の名は、羽鳥だ。覚えておけ」 羽鳥と名乗った男は脱いだ下着を放り投げると、僕の腕を力ずくで引っ張った。 そして、舌を首すじから頬へと這わせ、唇をこじ開けた。 もうこうなると、声を出せない。 「さて、こっちのほうはどうかな」 乱暴に僕を後ろ向きに倒し、すかさず僕のお尻を両手で鷲づかみにして、まさぐり始めた。 やがて、熱く固いものが押し付けられたかと思うと、敏感な部分に激痛が走るのを感じた。 たぶん、悲鳴に似た声を出したのだと思う。 意識は遠のいていた。 どれくらいたったのだろうか? 羽鳥の荒い息づかいが聞こえる。 僕は何をされたのかぼんやりと考えながら、ぐったりとしていた。 「もう、行っていいぞ。今後呼び出しが有ったら必ず来い」 羽鳥はそう言うと、成り行きを見て興奮していた取り巻き達に、 「花園には手を出すな。いいな。殺すぞ!」 と、声を荒げてけん制した。 そんなことがあり、羽鳥と関係をもってしまったことはショックであったが、それ以上に心配事があった。 それは、この事がクラスに広まれば、僕のいじめはますますエスカレートしてしまうのではないか? ということだ。 しかし、クラスの反応は違った。 むしろ、僕を笑いものしたり、バカにすることは無くなった。 「のろま」というあだなさえも誰も言わなくなった。 明らかに僕に気を使っている。 僕は気付いた。 そう、羽鳥の怖さがそうさせているのだ。 僕は羽鳥の愛人という立場であり、僕への攻撃は羽鳥への攻撃を意味している。 虎の威を借りるなんとやらだけど、この状況は悪くない。 そうさ、羽鳥の事は何とも思っていないが、僕を囲うというのなら、僕は羽鳥を利用すればいいんだ。 そんな風に思った。 いじめはなくなった。 ただ、孤立はしていた。 そんな中、僕に声をかける者があった。 「やぁ、花園くん。君と仲良くなりたいんだけど……」 と言ったのは、同じクラスメイトの氷室 敦(ひむろ あつし)だった。 僕は驚いた。 何故かといえば、氷室はクラスで一二を争うイケメンのモテ男子。 クラスの上位階層グループのリーダー的存在だったからだ。 氷室の行動にクラスの注目が集まった。 氷室は、僕の手を引いて、 「こっちで話そう」 と、教室の外に連れ出した。 誰もいない屋上へ繋がる階段まで来ると氷室は言った。 「なぁ、花園くん。君は、その、羽鳥先輩と付き合っているんだよね?」 今更、否定する事も無い。 僕は、そうだと答えた。 すると氷室は、目を輝かせて言った。 「俺は男の筋肉、とくに胸板に興味があってね。あ、ごめん、いきなり変なことを言って」 すごく興奮している。 「羽鳥先輩の噂は聞いていてちょっと怖いもの見たさ、ってのもあるんだけど、花園君、いやユウって呼び捨てでいいかな? 羽鳥先輩のその、胸板はどうだった?」 僕は、氷室の慣れ慣れしさと唐突な話題に全く付いて行けずにいた。 「ごめん、いきなりで何を言っているのか分からないよ」 僕は答えた。 「ごめん、ごめん。ちょっと、興奮してしまって……実はさ、ここだけの話、俺も恋愛対象は男なわけ。それも筋肉マッチョが好みでさ……いいよな、いいよな」 氷室はそう言うと、うっとりとした表情を浮かべた。 呆気に取られた僕の顔に気付き、氷室は説明を始めた。 まずは、羽鳥のこと。 羽鳥は過去に障害事件を度々起こしていた。 こんなことがあれば通常は退学である。 でもその度に親の力で学校にとどまれているのだという。 一番最近の事件は、柔道部と乱闘騒ぎをおこして、部員を数名病院送りにしたらしい。 「あの巨漢だろ? それに、柔道部を無傷で倒したっていうからにはさ、筋肉隆々、かなりの胸板ではないかと思うんだ」 氷室は、僕の顔を覗き込んだ。 「どうだ? これで俺の興奮が分かってくれたか?」 得意げに話す氷室は、呆れたのを通り越してむしろ清々しい。 僕は可笑しくなって笑った。 「なんだ、ユウはそんなに笑顔ができるんじゃないか。ああ、俺のことはアツシと呼んでくれよ。ところで話を戻すけど……」 そうか、そういえば学校で初めて笑ったかもしれない、と思った。 そんな事があり、父には、 「うん、実なね、友達ができたよ。アツシって言うんだけど」 と、微笑みながら答えることができた。 「そう、それを聞いてお姉ちゃんは安心しちゃった」 父は微笑みを浮かべた。 そんな幸せそうな父を見て、羽鳥とのことは絶対に話せないな、と思った。 それから、羽鳥から定期的に呼び出しがあり、僕は素直に応じた。 羽鳥はあまり話をしない。 本来、とても寡黙なのだ。 羽鳥との交わりは、徐々に変わってきた。 強引ではあるが乱暴に扱われることはなくなり、むしろ優しく僕を扱うようになった。 あの最初の時こそ、羽鳥以外の取り巻き達がいたが、二度目からは二人きりだ。 これも気配りなのかもしれない。 僕は要求されれば、羽鳥のものを口で愛撫もしたし、ねっとりとした舌の絡み合いにも応じた。 でも、自分から何かを求めることはしなかった。 そして何回か体を重ねたある日、初めて羽鳥が果てるときに僕の名前を呼ぶのに気付いた。

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