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第4話 悠真さんへの想い
花屋の仕事は、順調に回り始めた。
父は、外出することが多くなった。
ブライダルのコーディネートや、店舗向けのインテリア、イクステリアの定期サービス、公共施設のメンテナンス等、お客様から是非にと指名をもらえる事が多くなった。
一つ一つ実績を積み上げた成果だ。
それで、僕と悠真さんとで店番をする機会が増えた。
客足が途切れると、悠真さんは僕に話しかける。
「ユウ、学校は楽しいか?」
真っ先にアツシの事が思い浮かんだ。
「それが、面白い友達がいて……」
ただ、アツシの例の趣味については、筋トレ好き、ってことで誤魔化した。
うん、ギリギリ嘘は言ってない。
「ところで……」
悠真さんは話題を切り替えた。
「ユウは可愛いから、クラスで人気だろう?」
悠真さんは唐突に言った。
「えっ、可愛いって……」
僕は、反復して聞き返した。
悠真さんはそれを聞いて、
「うん、そうか……」
と言いながら、右手で僕の頬に触れ、僕をじっと見つめた。
僕は、心臓の鼓動が早くなるのが分かった。
音が聞こえてしまっただろうか。
悠真さんはにっこり笑いながら言った。
「ごめん、ごめん。確かに可愛いっていうのは変か。男の子に言う言葉じゃなかったね」
悠真さんは僕から放した手でごめんなさいを作った。
「からかったわけじゃないんだ……いや、でも本当だから」
僕は恥ずかしくなって、うつむいた。
そう。
ぜんぜん悪い気はしないし、とても嬉しい。
僕はそんな恥ずかしさから、悠真さんにずっと聞きたかったことを尋ねてみようと思い立った。
「ねぇ、悠真さん」
「なに?」
「悠真さんは、その、恋人とかいるんですか?」
悠真さんは、
「いいや、そんなのいないよ」
と即答した。
「でも、気になっている人はいるんだけどね」
と、照れ笑いをしながら言った。
僕は、悠真さんが仕事中にときおりスマートフォンで誰かと連絡をとっていることは知っている。
「でも……」
と言いかけたとき悠真さんは、僕が言いたいことを察したのか、
「あ、これ?」
とスマートフォンをちらっと見た。
「いや、ちょっと昔の仕事仲間と連絡をしあっていてね。ごめん、仕事中は控えるようにするよ」
「あ、いえ、いいんです。ちょっと気になっただけですから……」
僕は、言わなければよかったと、後悔した。
せっかく楽しい雰囲気だったのに……。
ある日、休みを取り3人で遊園地に行くことになった。
ことの発端は、父の店舗のコーディネートの依頼がキャンセルになったこと、期限が近い遊園地のチケットをお客様よりいただいたからだ。
「最近働きずめだったからちょうどいいわね」
父はそう言うと、あそこの遊園地は植物園と庭園が綺麗なので楽しみ。
とつづけた。
悠真さんは、父の笑顔に弱い。
微笑みを返しながら、
「いいですね。それではすぐにレンタカーを借りてきます」
と言って手配に向かった。
久しぶりの遊園地。
僕も父も、そして悠真さんも思いっきり楽しんだ。
僕は、こないだの悠真さんの恋人の件ですこし気分がモヤモヤしていたけど、遊園地で遊んだことで、いっさいのわだかまりは消えた。
レンタカーを返した帰り際、父はお土産にと悠真さんと僕にお揃いのハンカチをプレゼントしてくれた。
花柄で少し女性向きっぽいデザインだったけど、悠真さんも僕も「ありがとう」と口を揃えて言った。
悠真さんはとてもは嬉しそうではしゃいでいるように見えた。
悠真さんは言った。
「ユウとお揃いだな。なんか嬉しいな」
「うん」
そう、僕も嬉しい。
一方で、悠真さんと見えない何かで結ばれたような気がして少し気恥ずかしい。
そんな悠真さんは、意外と律儀なところがある。
後日、この間のお礼です、と言って
「これとっておきのキーホルダーです。身に着けておいてもらえると嬉しいです」
と、動物のキャラクターをあしらったキーホルダーをプレゼントしてくれた。
父はとても喜び、
「大切にします」
と胸の中に大事そうにしまった。
僕も、ありがとう、と礼を言った。
悠真さんは、
「ちょっと子供っぽかったかな?」
と言ったけど、僕はとても気にいっていた。
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