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第28話

「え?」と彼に聞き返されたが、朱莉自身も、自分に向かって「え?」と問いかけていた。何だ。一体何でそんなことを訊いてしまったんだろう。  こんなことやってる暇ないのに。いや、暇はあるけれども。こんなことやってやる義理はないのに。彼が持っていた地図を半ば奪い取るようにする。マークのついているところが、これから回るところらしい。 「何だ、俺ん家の近くじゃん。これだったら帰りがけについでに貼ってってやるから、何枚かくれたら」 「そんなの悪いですよ」 「いいって、つーか……何か見てらんねーんだよ」 「でも、古いポスターの回収もありますし……」 「だったら車に乗っていい? それでぐるっと回って、最終的に家まで送ってくれればいいから」 「それじゃあかなり遠回りに……」 「別に帰ったってやることねえし」  返事を聞くより先に助手席に乗り込んだ。こういうタイプには実力行使に限る。ホテルに入るまでは尻込みしていても、脱がせてしまえば快楽に抗えないタイプ……  彼が運転席の方に慌てて回り込むのを見ながら、最低な妄想をしてしまった。それなりの数のアルファと寝て身についたのは、こんな最低な人間観察力だ。そういえば彼は……アルファだろうか、ベータだろうか。アルファっぽい感じはしないけど。  カチャッ、カチャカチャッ……と、シートベルトを何度かバックルに差し損ねている。教習所の教官のような心境だった。彼が顔を上げた瞬間目が合いそうになったので、さりげに前を向いた。ポスターを貼るだけじゃなく、もしかしたら運転も代わってやった方がよかったんじゃないだろうか……と嫌な予感がしたが、幸い運転技術は、即行車から降りたくなるようなレベルではなかった。ただ、ブレーキを踏むタイミングが早いのは気になったけど。 「……あんたも将来、政治家になんの」  なれると思ってないでしょう、という風に彼はふっと笑った。

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