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第27話
「ほら、こういうのは思いきりが大事なんだから」
「思いきり……ですか」
「そう。一回やって駄目なもんはどうやったってよくなんねえから。あ、ちょっとそっちから見てて。水平かどうか」
「あっ……は、はい」
「どう? 真っ直ぐになってる?」
「ばっちりです」
「じゃあ戻ってきて。ここ押さえてて。上のテープ留めたら、一気に貼るから。あー、下のテープはまだ剥がさなくていい」
空気を抜きながら、下まで一気に手を滑らせる。完璧。我ながら手際がいい。腰を上げると、ぱちぱちぱち、と背後で拍手が聞こえた。この程度のことで馬鹿に……されてる、わけ、じゃない。本気で感心している。だから……これだからタチが悪いんだ、お坊ちゃんってやつは。その純粋さはもはや凶器だ。「いや、見事なもんですね」……って、まるで名画でも鑑賞しているみたいなくちぶりだ。白くて長い指が、青いポスターの上を滑る。
ふと、塀に立てかけてある紙袋を覗くと、大量のポスターが入っていた。
「これ……全部、貼んの?」
「ええ、まだ他にも貼らせてもらっている場所はいっぱいあるので。雨風とかですぐにぼろぼろになってしまうので、定期的に貼り替えているんです」
「歩いて回んの?」
「いや、流石に……車ですけど」
と、彼は、斜め前のコインパークを指して言った。まさか……
「まさかわざわざコインパークに入れてんの?」
たったポスター一枚貼るためだけに? こんなのサッとやれば、五分もかからないじゃないか。
「近隣の方にご迷惑をおかけするわけにもいきませんし。それに短い時間とはいえ、路上駐車が見つかったら『鷺宮晴子』の名前を傷つけることになってしまいますしね」
「ふうん……律儀だな。でもこのペースでやってたら間に合わなくない?」
というかそもそもこういうのも秘書の仕事なんだろうか。
「まあ、何とかなりますよ」
「手伝おうか?」
「え?」
「あとどこの場所が残ってんの」
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