26 / 150
第26話
それなのに休日。買い物帰り。彼がポスターを貼っている現場に居合わせてしまった。
反射的に電信柱の影に隠れてしまう。気づかなかったフリをして通り過ぎることも考えたが、向こうに気づかれて声をかけられてしまったら面倒だ。彼がポスターを貼り終えるまで待っていよう……
しかし彼は、かれこれ十分以上、塀の前でもたもたしている。おでこがくっつくくらいに近づいて、塀を指でこすっている。……何だあれ。
スマホのカメラでズームして見てようやく、前に貼っていたポスターの粘着テープを剥がしているのだと分かった。どうやら塀の細かい凹凸にへばりついてしまったらしい。さらに十分以上格闘し、遠目に見てだいぶきれいになったと思うのに、しつこく消しゴムカスみたいなよごれまで取り除こうとしている。何でそこまで……というか、どうせまた上から貼るからいいんじゃないのか。
今すぐ言いたい。
もういい加減やめろと言いたい。そんなことしたって無駄だと。
飛び出したくなる衝動を何とか堪える。ようやく納得がいったらしく、紙袋から新しいポスターを取り出している。しかしそこからがまた、長かった。貼れた、と思ったら一旦距離を置き、また微調整しては確認……を繰り返している。何が気にかかっているのか分からないが、朱莉の目には何も変わっていないように見える。おまけに何度も貼り直しているせいで、皺が寄ってしまっている。
「ああもう!」
粘着力が弱まって剥がれたポスターがこちらに飛んできたので、たまらず飛び出ていた。
「何やってんだよ」
「え……川澄さん、何でここに……」
「何でここ……って、俺のテリトリーなんですけど。つーかあんたこそさっきから何やってんの」
「さっきから……」
しまった。ずっと見ていたことがバレてしまう。
「それ、もう駄目だろ。新しいのに貼り直したら?」
「駄目ですかね」
使える気でいたのか。
「駄目だろ。おばさ……センセイの顔に皺寄っちゃってるじゃん」
ただでさえしわしわなのに……とは流石に口に出さなかったけど。
ともだちにシェアしよう!