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第26話

 それなのに休日。買い物帰り。彼がポスターを貼っている現場に居合わせてしまった。  反射的に電信柱の影に隠れてしまう。気づかなかったフリをして通り過ぎることも考えたが、向こうに気づかれて声をかけられてしまったら面倒だ。彼がポスターを貼り終えるまで待っていよう……  しかし彼は、かれこれ十分以上、塀の前でもたもたしている。おでこがくっつくくらいに近づいて、塀を指でこすっている。……何だあれ。  スマホのカメラでズームして見てようやく、前に貼っていたポスターの粘着テープを剥がしているのだと分かった。どうやら塀の細かい凹凸にへばりついてしまったらしい。さらに十分以上格闘し、遠目に見てだいぶきれいになったと思うのに、しつこく消しゴムカスみたいなよごれまで取り除こうとしている。何でそこまで……というか、どうせまた上から貼るからいいんじゃないのか。  今すぐ言いたい。  もういい加減やめろと言いたい。そんなことしたって無駄だと。  飛び出したくなる衝動を何とか堪える。ようやく納得がいったらしく、紙袋から新しいポスターを取り出している。しかしそこからがまた、長かった。貼れた、と思ったら一旦距離を置き、また微調整しては確認……を繰り返している。何が気にかかっているのか分からないが、朱莉の目には何も変わっていないように見える。おまけに何度も貼り直しているせいで、皺が寄ってしまっている。 「ああもう!」  粘着力が弱まって剥がれたポスターがこちらに飛んできたので、たまらず飛び出ていた。 「何やってんだよ」 「え……川澄さん、何でここに……」 「何でここ……って、俺のテリトリーなんですけど。つーかあんたこそさっきから何やってんの」 「さっきから……」  しまった。ずっと見ていたことがバレてしまう。 「それ、もう駄目だろ。新しいのに貼り直したら?」 「駄目ですかね」  使える気でいたのか。 「駄目だろ。おばさ……センセイの顔に皺寄っちゃってるじゃん」  ただでさえしわしわなのに……とは流石に口に出さなかったけど。

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