25 / 150

第25話

「お仕事もあるのに……すみません、図々しいことを。忘れてください」 「お仕事……は別にどうってことないんだけどさ、土日は暇だし。でも……」 「あっ、それにそもそも、支持政党……が、ありますもんね」 「いやいや『シジセイトウ』とか考えたことないから、そんなのは全然気にしないんだけど。ただ、俺でいいわけ? 何ていうかその……俺はオメガ、なんだけど」 「ええ、全然、大丈夫です。むしろその方が好都合で」 「好都合?」  今取りかかっている作業を終えてから、きちんと説明しようとしていたのだろう。しかし折る場所を間違えたのか、サイズが合っていない。それじゃあ封筒に入らないだろうと思ったら、案の定だ。首を傾げながら同じチラシで再チャレンジしようとしていたから、「一度折り目がついちゃったらもう駄目だろ」と新しいチラシを手元に滑らせてやる。 「すみません。どうもこういうのは不慣れで。やはりプロにお任せした方がいいようです」  小さい子に見本を見せるように、彼の目の前で折ってやる。お世辞だというのは重々承知していたが、気分がよかった。どうせ時間は有り余っているんだから、今まで知らなかった世界をちょこっと覗いてみるのも悪くない……そう半分以上傾きかけていたとき、彼は言った。 「実は本来来てもらうはずだったバイトの方も、オメガだったんです。各事務所に最低二名はオメガのスタッフを置くことが党の目標なんですけど、なかなか難しくて……。ようやく条件に合う方が見つかったと思ったんですが……」  オメガ……  ここでも、か…… 「……み、さん。川澄さん?」  何度か呼びかけられていたらしい。 「あ、あ、えっと……」  残っていたチラシを大急ぎで片付けると、まとめて箱の中に突っ込む。 「やっぱり……バイトはちょっと、厳しいかも」 「ですよね。そうですよね、本当、突然すみません」

ともだちにシェアしよう!