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第30話
「ところで君は……」
朱莉のことをスルーするひとが多い中、おしゃべりだったおばさんは食いついてきたので、一瞬慌てた。けれど朱莉以上に彼の方が焦っていて、変に言い淀んだせいでこれじゃあ疚しい関係みたいに思われてしまうじゃないか、と、見かねて「ボランティアです」と口を挟んだ。政治家の事務所にボランティア……なんてあるかどうか知らないけど。
「へえ……前に新しく採るって言ってたスタッフの子?」
「あ……えっと、それは急遽駄目になっちゃったので、ちょっと……お手伝いしてもらっているんです」
「ああそう、何だ、てっきり亨くん、おさまるところにおさまったかと思ったのに」
「おさまるところ、って……」
「皆気にしてるわよ。早くつがいを見つけたらいいのに、って。最近は面倒くさがってそういうことしないアルファも増えたけど。でもやっぱりアルファだったら、そういうところでも甲斐性見せてほしい、って思うわけ。二人も三人もとは言わないけど。一人くらいはつがいになってあげてさ、幸せにしてあげてほしいっていうか」
「はあ……」
ねえ、あなたもそう思うわよね? と振られ、彼がぎょっとしているのが分かったが、あいにく朱莉はそれくらいで動じも傷つきもしない。
「そうですね。未来の大センセイですもんね。つがいにしてもらいたいオメガが列をなしてますよ。俺だってつがいにしてもらいたいくらいですもん」
微妙な空気になったところあえて最上のスマイルを作り、「行きましょうか、センセイ」と彼の分の荷物も一緒に持って、先に車の方に向かった。
「どうしてあんな……」
背後から彼が声をかけてきていたが、あえて聞こえないフリをして先に車に乗り込み、バタンとドアを閉めた。これで諦めるかと思ったのに……
「どうしてあんなこと言ったんですか」
結局、諦めなかったか。
「どうしてって……あんたの方こそ何なんだよ。あれくらい上手いことかわせよ。『今の自分じゃオメガの方からお断りされますよ』とか逆に『たくさん候補がいて選べないんですよね』とかいくらでも言いようあるだろうが」
「申し訳ありませんでした」
「謝られても……ってか、謝るのも変じゃね?」
「いえ……川澄さんにあんなこと、言わせるべきではありませんでした。と言うより、私自身が、あんな言葉を聞きたくなかった」
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