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第31話

「……あんたやっぱり、政治家向いてねえな」 「そうですね」 「ていうか、アルファ、にも向いてねえな」  沈黙が落ちる。幸い、残りはあと一枚だった。これが終わったらもう、そこでさっさと別れよう。そしてたぶん金輪際、会うことはない……  頬杖をついて、完全に窓の方を向く。カッチカッチカッチ、というウィンカーの音が大きく響く。 「自信がないんです」  車が停まった。目的地に着いた。でも何故だろう。シートベルトを外さず、じっとしていた。じっと彼の言葉を待ってしまった。 「オメガやベータはもちろんそうですが、私はアルファの意見も代弁することができない。痴漢の件だってそうです。変えなきゃいけない法律ということは分かっています。でもアルファから、『悪意あるオメガに誘惑されたらどうするんだ』と反論されたら言い返せない。私はたぶん、アルファとしての性質が弱いんです。ラット化……はもちろん、フェロモンにあてられた……と、いうことも実はなくて。そういうひとたちの気持ちも分からないから、『アルファも薬を飲んで自衛しましょう』と偉そうになんてとても言えない。何を言うにも……迷ってしまうんです。自分の主義主張は、何にしたって薄っぺらだから」 「重いんだよ」 「えっ」 「こんなタイミングでそんなど重いこと言うなよ」  またしても沈黙。 「だからそこで黙るなって」 「すみません」 「でも……何となく分かる、あんたの言うこと」  朱莉だってたぶん、オメガとしては中途半端、だ。発情期はつらいにはつらいが、耐えられないほどのつらさじゃない。楽なときは一時間程度でおさまる。だからオメガに与えられた特別休暇をさほど消化せずに済んでいる。だから派遣先からは重宝される。でも他のオメガが『あいつのせいで俺らがサボってるみたいに見えるじゃん』と疎ましがっているのも知っている。

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