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第85話
息子の友だちはアルファしか許さなかったとか、レストランで料理を持ってきたのがオメガだったらその料理を突っ返したとか……これでもかと滑稽に、貶める内容が続く。
週刊誌って本当に盛って書くよな……と言うより先に、
「よく調べてますよね」
白旗を掲げるように、享がぽつりと漏らした。
享に戦意喪失されてしまったら、朱莉にできることは何もなかった。
もう一度記事に目を落とす。アルファ、息子、三十歳……それが享のことのような気がしなかった。
S市議、と中途半端な伏せ字に余計に悪意を感じる。演説するさぎみやはること一緒に、享も写されている。黒目線の加工。まるで犯罪者みたいだ。これを見たひとはほとんど、溺愛ママとボンクラ息子だという印象を受けるに違いない。
そしてふと思う。週刊誌に暴かれる前に、享はこのことを知っていたのかと。
よく分からないままに選ばれてきた……と、享の言葉を思い出したその瞬間、サアッと血の気が引いた。何も分かっちゃいなかった。このひとのことを何も分かっちゃいなかった。選ばれてきたからいいなんて、どうして単純に言えたんだろう。
「母は上昇志向が強いひとで……」
記事に目を落としながら、淡々と話す。
「アナウンサーをやっていたときから、ベータ、ということでいろいろ、アルファと比べられて悔しい思いをしたそうです。そのこともあって、アルファ、というステータスにひどくこだわるようになりました。結婚相手も、子どもも……。そんな母を諫める機会はいくらでもあったはずなのに……それをしなかったツケが今、回ってきているんでしょうね」
「享は何も悪くないだろ」
しかし享はうつむいたまま、微動だにしなかった。
「しなかった、というか、できなかったんだろ。享は優しいから。それまでの苦労も知ってるから、何も言えなかったんだろ」
享はゆっくりと頭を横に振り、そして、言った。
「私は、本当は、ずっと、自分がアルファであることから逃れたかった。恩恵を受けながらアルファであることから目を逸らし続けてきた。たぶんそれが、一番の間違いだったんです」
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