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第149話
「勝った」
と、誰かが呟いた。
そのひとことをきっかけに、「勝った」「勝った」と、伝播していく。ひとしきり全員に行き渡った、最後に、「勝った」と朱莉も呟いた。
「ほら、先生呼んで、早く、早く」
と、おばさんに背を叩かれる。
「あっ、は、はいっ」
亨は事務所の傍の駐車場で待機しているはずだった。スマホを押す手が、さっきよりももっと震えている。さっきとは真逆の感情で。
選対本部長が、ホワイトボードに最終的な数字を書き込む。千票差の接戦だった。
やっとの思いで亨のアドレスをタップできた。コール音が長く感じる。一回、二回……しかしなかなかつながらない。亨ももう、ホームページで結果を確認しただろうか。それとも早速他の誰かから電話が入っているだろうか。
いても経ってもいられず飛び出す。
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