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第150話
外は真っ暗。駐車場に向かうまでの道に街灯はほとんどない。
さっそく鷺宮先生に陳情しないと。
早く。
早く、亨。
喜びを伝えたい。分かち合いたい。
足が縺れる。息が上がる。
バン、と車のドアがあく音がして、暗がりの中でも、亨が出てきたのがはっきり分かった。
「亨!」
力強く、叫んだ。
「亨、亨……!」
あれ、おかしい。他に言葉が出てこない。おめでとう、とか、やったな、とか、これからが大変だぞ、とか、もっと他に言うことがあったはずなのに。たくさんたくさん、用意していたはずなのに。
「朱莉さん!」
亨の胸に飛び込む。
事務所に戻ったら、亨は皆の『先生』になる。
だからもう少し。ほんの少しだけ。自分だけの亨でいてほしい。
言葉の前に、感情の前に、ぼろぼろと涙がこぼれ出た。こんな涙なら、いくらでも流したかった。
病めるとき、悲しみのとき、貧しいとき……それだけじゃ、やっぱり、嫌だ。
喜びのときにも、一緒にいたい。
ようやく一緒に、いることができた。
完
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