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第11話

「君は平々凡々には程遠いと思うが……、だが確かに、静かな平穏を好む楓には面倒かもしれないな。どうにも気位が高い者が多い」  やはり……。こらえきれず楓は深々とため息をついた。そんな楓の肩を慰めるようにポン、ポンと優しく叩いて、そのつむじに口づける。 「ただ……、しばらく会ってないから絶対とは言い難いけれど、冷泉の方は気にしなくてもいい。あれは執念深いし、君という前例もできたしね」 「……私?」  楓が前例? 何のことを言っているのだろうか。わからず楓は首を傾げるが、朔眞はその言葉の通り確証がないのか、それ以上を口にしようとはしなかった。 「それより、せっかく帰ってきて倖陽も寝たんだ。あの子はいくら見ていても飽きないくらい可愛いが、寝ている時くらいは私だけを見てくれてもいいのでは? もちろん、大公妃としての役目も忘れて」  甘えるように頬を摺り寄せる朔眞に楓はクスリと笑みを浮かべた。楓が朔眞の前では大公妃でなくなるように、朔眞もまた楓の前では大公でなくなるらしい。 「朔眞……」  呼べば頬を撫でられ、そっと口づけられる。啄むように幾度か口づけられ、そして深く深く唇を朔眞のそれで愛撫された。穏やかで優しい温もりに楓は揺蕩う。  倖陽といる時はせわしなく、だがこの子の為なら何でもできると思える。何時間見つめていても飽きはしない。あっという間に時間が過ぎるとはこのことだろう。けれどそうして心に余裕をもって倖陽に接することができるのは、朔眞が隙あらば守り甘やかしてくれるからであることを楓は知っている。大公邸とサロンの行き来のみで外に出ることのできない楓にとって、この時間は己をリラックスさせるのに必要だった。

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