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第5話

 三週間ほど前、唯人に誘われ、俺はクラブに顔を出していた。  クラブはあまり好きじゃないが、唯人にしつこく誘われ、断るのも面倒でその誘いにのった。  クラブで飲む酒の味は悪くなかったが、下着のような格好でうろつくアルファの女性に俺はすれ違い様に股間を撫でられ、叫び声をあげてしまった。  女性は呆れた顔で俺を見た。 「あんたもしかして童貞?ここはお子様がくる場所じゃないのよ。とっとと帰んな」  口をぱくぱくさせて女性を見る俺を、今と同じ様ににやついた表情を浮かべた唯人が見ていた。 「本当に童貞だからってあんな言い方することないのになあ」 「お前、面白がってるだろ」  そう問うと、唯人がにやっと笑う。 「ばれた?」  俺はそんな唯人を無視し、目の前の生姜焼き定食をかきこんだ。  唯人の家で2人で飲んでワインを4本開けた時、酔っ払って自分が経験がないことを俺は唯人にぽろっと話してしまった。  それから事あるごとに唯人は童貞ネタで俺のことを揶揄ってくるようになった。  別に俺はそんなの気にしないけどな。好きでもない相手と寝るくらいなら、我慢した方が全然良いし。  俺には同い年のオメガの許嫁がいた。  許嫁の美鈴(ミスズ)とは中学の頃から知り合いで、月に一度はデートをする仲だ。  とても真面目な女の子で、結婚するまで体の関係はもちたくないと言われていた。  だから俺達の関係はキスどまりだった。  しかし俺はそのことを不満に感じてはいない。  むしろ奥ゆかしい美鈴の申し出に、この子が許嫁で良かったと思ったほどだった。 「なあ、怒ったのかよ?」  唯人が机の下で、俺のスニーカーをこつんと蹴る。 「怒ってねえよ。だけどクラブには行かない」  俺がそう言った瞬間、唯人の隣の椅子が引かれた。 「唯人、今日来るよね?」  派手に化粧をしたオメガと思しき少女が、唯人の隣に座る。  唯人は一瞬だけ彼女の方を見たが、無言で俺に視線を戻した。 「ねえ、唯人ってば」  唯人は煩そうに、腕にしがみついている少女を振り払った。 「行かね」 「えー、何で?唯人が来るって私もゆかりも楽しみにしてたのに」  唯人が俺に向かって顎をしゃくった。 「こいつが行かないから」  ばっちりアイメイクし、グレーのカラコンをつけた少女に大きな瞳で睨まれ、俺は背中に汗を掻いた。 「俺は行かないけど、唯人は行けばいいだろ?」 「和希が行かないのに、何で俺が行くんだよ」  俺は内心「なんで俺が行かなきゃ、お前も行かないになっちまうんだよ」と叫びたかった。

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