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第3話
忘れられない。
俺はいまでも、陽咲のことが忘れられない。
だから、だろう。
こんな夢を見るのは。
細く華奢な体。陶磁器のように滑らかで白い肌。
決して噛み痕はつけないように、それでも俺の所有物だという証である赤い花を身体中に散らす。
「ンっ、ふ、あ。はじめ、もっともっと」
俺を求めて、健気に陽咲は俺へしがみつく。
番になるのは陽咲が二十歳になってからと決めていた。
だから、噛み痕をつける代わりに、俺は陽咲の肌に唇を這わせ吸い上げる。
だから、少しだけ激しく抱いて、繋がっている中へ傷をつけるように俺を刻み付ける。
在りし日の夢。
現実だった日々。
満ち足りて幸せだった。
それなのに、どうしてこうなったのだろう?
どうして、この夢のように陽咲は俺に抱かれてくれないのだろう?
答えは簡単だ。
終わったからだ。
陽咲に好きな人が出来たから。
それを聞いたとき、狂ってしまいそうだった。
嘘だと叫びたかった。
嫌だと叫びたかった。
でも、笑って嬉しそうに、そして申し訳なさそうに俺に頭を下げる陽咲に何も言えなくなってしまった。
だから、これが最後だからと抱いて。
酷く抱いて、終わったのだ。
抱いている間、何度陽咲と番になろうかと思ったかわからない。
噛み痕をつけて、心も体も全てに俺を刻みこもうとそして死が二人を分かつまで一緒にいようと何度願ったことかわからない。
「ひなた、ひなた、俺を見ろ。
愛してる、愛してる。だからーーっ!」
激しく陽咲の体を揺する。
何度も激しく叩きつけるように、俺は陽咲の奥を突く。
まるで少女のような甲高い声で、陽咲は鳴き、それに俺はますます興奮する。
「あ、ァアっ!
くぅ、はげし、もうちょ、ゆっくりぃ」
「好きだ、愛してる、俺の俺だけのひなたっ!」
「ふ、んン、うぁ、はじめ、おれも大好き、すき、すきだよ」
きゅうきゅうと陽咲の締め付けがきつくなった。
俺は熱を陽咲の中に注ぎ込む。
孕めばいい。
そうすれば、番なんて関係なく一緒になれるのに。
いっそのこと生でやればよかった。
紳士なんて気取らずに、ヒートの時に無理矢理抱いて壊してしまえばよかった。
そうすれば、きっとこんな夢を見なくてすんだんだ。
そうすれば、いまもきっと陽咲は俺の隣にいてくれたはずなのだ。
ハッとして目が覚めた。
夢のせいで俺の股間が熱を持っていることにすぐ気づく。
寂しく妄想で慰めることにする。
こんなときでも思い浮かぶのは別れた年下の恋人だった少年のことだ。
現在、親が勝手に纏めた縁談によって婚約者と呼ぶ相手はいるが、とても陽咲の代わりにはならない。
陽咲と同じΩ性だが、陽咲とは違う女性である。やはり違うのだ。性別という意味ではなく、人間性が違う。
目は口ほどに物を言うとよく言うが、彼女は俺を愛していない。
彼女が愛しているのは、俺個人ではなく俺を取り巻く環境だ。
地位であり、権力であり、金だ。
同じΩでもこうも違うのか。
贅沢を悪とは言わないが、買い物をするためだけのデートは俺が慣れていないせいもあるのだろうが、酷く疲れる。
陽咲とのデートは、散歩だったりゲーセンだったり、どちらかの部屋でレンタルした映画を観るか、やはりゲームをするかというなんでもない遊びが多かった。
体を重ねることなく、耐久で映画三昧したのは良い思い出だ。
食事を奢ることも勿論あったが、大抵はハンバーガーかラーメンだった。
そもそも、親代わりの叔母の仕込みが良いのか陽咲自身が料理が得意だったのだ。
二人で夕飯を作ったこともあった。
あの日々が、ずっと続くと信じていた。
でもーー。
俺は自分の手に熱を吐き出す。
それをティッシュで拭い、後始末をしてもう一度寝ようとしたときだった。
喉が渇いてることに気付き、水を飲もうとキッチンに行こうとしたとき、仕事の為にと用意した家電に留守電が入っていることに気づいた。
何か緊急の要件だろうかと考え、再生ボタンを押すと、元恋人の叔母の声が録音されていた。
短いメッセージだった。
『おい、このにぶちん野郎、責任取りやがれ』
荒々しい音声だった。
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