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第2話

暗い顔で、部屋に引きこもって一日考えた結果。 陽咲が出した結論は、とりあえず、病院に行ってちゃんとした検査を受けるというものだった。 何かの間違いかもしれないと、そんな希望とも言えない希望にすがったのだ。 簡易検査薬は、本当に簡易なのだ。 だから、きっと何かの間違いに決まっている。 そう思い込もうとする。 しかし、結果は残酷そのものを陽咲に突きつけてきた。 間違いではなかった。 どうすれば良いのだろう? 相談相手は、もう叔母しかいない。 両親は、二人とも事故で他界している。 宿った命の父親は、すでに陽咲の手が届かない場所にいる。 結果を知らされ、暗い顔をする陽咲に医者は、何かを悟ったのだろう。 次は家族と来なさい、と言った。 嬉しいはずだった。 でも、全く嬉しくない。 どうやって帰ったのか覚えていない。 喫茶店の二階にある自室。そこで膝を抱えて途方に暮れた。 今日は喫茶店の定休日だ。叔母は、友人と遠出している。 叔母には話さなければならないだろう。 しかし、どう切り出したものか。 叔母は、陽咲と創の仲を知っていた。 だから、別れたと報告したときとても驚いていた。 しかし、二人で決めた事なら、とそれ以上の追及は無かった。 まさか、別れた後でこんなことになるなど完全に予想外である。 どれくらいそうしていたのかわからない。 ただ、明るい叔母のただいまという声に体を震わせた。 怒られるとか、そんなんじゃなくて、ただの条件反射だ。 「ヒナ、お土産買ってきたよーってどしたの? え、泣いてた?」 プライバシーなんて、有ってないようなものだ。 ノックもせず開け放たれた自室のドアのから現れた叔母は、泣き腫らした顔をした陽咲を見て、戸惑った。 「ちょっとちょっと、本当にどうしたの?」 「叔母さん、どうしよう? 俺、オレ......」 しゃくり上げながら、陽咲は妊娠の事を話した。 話してしまった。 陽咲と創が別れた本当の理由を知らない叔母は、話を聞いて目を丸くした。 そして、 「創くんに連絡して、ちゃんと話しなさい」 そう言われた。 それは、本当にその通りだ。 一人では妊娠なんて出来ない。 そして、陽咲は創しか知らないのだ。 どういう決断をするにしても、陽咲一人の責任では無いのだ。 叔母の言葉は正論だった。 「でも」 「でもじゃない、やれ」 叔母は有無を言わせない威圧感で、転がっていた陽咲の携帯を拾い上げると寄越してくる。 叔母が見ている前で、指を震わせながら登録してある番号にかける。 番号が変わっていたらどうしようと悩んだが、それはすぐに杞憂となった。 相手は出た。 目的の人物では無かったが。 『お願い、しましたよね?』 険のある、可愛らしい女性の声だ。 創ではない。 しかし、電話越しだがその声を陽咲は知っていた。 『陽咲さん。私、創さんと別れてくれってお願いして、それを守ってくれたのだと思っていたのですが?』 創の婚約者となった女性の声である。 相手の顔が見えない電話越しだからか、以前、彼女が言った【お願い】をしに来たときと違いとても強気である。 「すみません。どうしても創に話さなければならないことが」 『もう貴方と創さんは無関係なんです。二度と電話してこないで、このストーカー! 次同じ事したら出るところに出るので、覚悟してください!』 一方的に電話を切られてしまう。 苦笑しながら叔母を見ると、叔母が笑いながら陽咲を見ていた。 顔は笑っているが、目が笑っていない。 創の婚約者の甲高い声は、叔母にもよく聞こえていたようだ。 「ヒナ? 私に言うことあるわね?」 「えと、その、あの」 「今の電話の相手、創くんじゃないよね? それに別れてくれって頼まれたってどういう事なの?」 「えっとですね。お、おちついて」 「兄さん達の大事な忘れ形見孕まされた揚げ句、捨てられて、ストーカー扱いされておちついてられるほど、アホじゃないんだけど? え、なにヒナにはそんなアホだと思われてたの?」 そんな事はない。 叔母は邪険にするでもなく、両親を亡くした陽咲を快く引き取ってくれた。 二人の関係は、叔母と甥ではなく年の離れた姉と弟といった方がいいかもしれない。 「ねえ、ヒナ? 私が怒る前に、全部ゲロった方が良いと思うなぁ。 じゃないと」 言いつつ、叔母は自分の携帯を取り出す。 「創くんの実家のスキャンダルをお金に替えることになるから」 大きな組織になればなるほど、埃はたまっていくらしい。

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