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第1話 贖う

 まだ世界から不思議が失われなかった頃。  「ソレ」は存在していた。    岩のような巨体。   赤く輝く巨大な単眼。  灰色の肌。  恐ろしい姿の化け物。  呪われた身で這いずるように生きていた。  殺し壊し貪る。  それだけの存在。    呪われたモノ。  いや、「ソレ」がその日、翼ある美しい生き物を見てしまったことこそが呪いだったのかもしれない。  美しい天界から降りてきたまだそれ程の年月を生きていない天使は地上の湖に見とれていたのだった。  その目はその湖よりも青く。  空よりも淡かった。  闇と血しか知らないソレはその目を見てしまったのだ。  美しい。  ソレは生まれて初めてそう思った。    呪いのようにその感情は湧き上がった。  呪い。  天使にとって?  それとも「ソレ」にとって?  ソレは一目見ただけで飢えた。  散々奪い喰らってきたのに知らなかった飢えだった。  胸の奥が痛んだけれど、それ以上に股間が熱い。  腹の飢えとも、血を欲しがる飢えとも違っていた。  飢えがソレに命令した。  だから従った  飢えではない部分はそうするなと叫んでいたのに。  天使は地から伸びてきた腕に引きずり込まれた。    地の奥につれさられ冷たい洞窟の岩の上に押し倒された。  天使は抗う。  巨大な腕や身体をもつ化け物に向かって、果敢な攻撃をする。  天使が放った風はソレを切り裂いたけれども、ソレは切られる肉にも、流れる血も気にしなかった。  骨だけで繋がった腕のまま天使を押さえつけた。  風が斬りつけ、顔から耳が飛ぶ。  鼻が飛ぶ。    ソレは気にしなかった。  天使の尻を持ち上げ、服の上からそこにむりやりねじ込んだ。  服を貫き、肉を引きちぎり、天使は串刺しにされた。  天使は泣き叫んだ。  残酷な行為に血が吹き出す。  ブチブチと肉をちぎられ、その千切れる肉の中で、ソレは腰を叩きつける。  あまりの気持ち良さにソレは叫ぶ。  ソレは自分以外の仲間を知らなかったから、それは生まれて初めての交尾だった。    天使の肉を貫くことはたまらないほどの快楽だった。  これが欲しかったのだ。  飢えが命令する。  もっともっと。  ソレは楽しむ。  なんて気持ちがいい。  天使は絶叫した。  人間ならば、即死していただろう。  その姿にソレは思わず止まる。  胸が痛い。  青い目から流される涙に、苦しい。  こんなに気持ちいいのに。  でも、次の瞬間放っていた。   天使の肉の中に。  その快楽にソレも絶叫した。  脳が焼かれた。  出しながら、何度も腰を動かしていた。  天使の肉の甘さを心いくまで引きちぎりながら味わってしまった。  でも我に返って、慌てて血まみれの天使の肉の中から性器を引き抜いた。  胸が苦しい。  わからないけと、苦しい。  天使を苦しめたことが苦しい。    オロオロと見つめるソレの前で、天使の身体は瞬く間に再生されていく。  天使の再生力はソレ以上だ。  天使は震えながら憎しみをこめて、ソレを睨みつけた。  ソレの血と天使の血で汚れた服。  その破かれたところから見える白い尻。  今、そこの傷は再生していても、穴からは大量のソレの精液を垂れ流していた。  何故かソレはその光景に満足した。  天使か自分の精液を垂れ流す姿に。  天使はソレと戦うべく立ち上がった。  強い意志が見えた。  その時だった。  冷たく尊い天界の掟が働き、天使の翼は脆く剥がれ変色し、リングは砕けた。     天使は汚れてはいけない。  化け物に犯されるなど、あってはならない。  天使は堕天したのだ。     天使からは全ての力が消え失せた。  泣き叫んでも、もう戻れない  天使は何の力もなくなった身体で崩れ落ちた。  天界には戻れないからだ。  その天使をソレは抱きしめた。  天使は泣き叫び逃げようとしたが、力のない天使に出来ることはなかった。  その頃にはソレが天使につけられた傷も、再生していた。  でも、天使もソレも血まみれで。   血まみれの天使は美しくて。  ソレはその天使が欲しくてたまらなかった。  ソレは今度は丁寧に天使を抱いた。  無力な天使は、諦めたように身体を任せてきた。  もう汚されて戻れなくなったから。  天使は泣いていた。  ソレは泣いてる天使に胸が痛む。  だから、最後まではもうその日はしなかった。   指や舌でそこを犯しはしても。  巨大な性器で引き裂いたりはしなかった。  ただ、絶望したように泣く天使を何度もイカせただけだった。  堕天した時には知ることもなかっただろう、肉体の快楽を与えるためにソレは自分の精液が零れるそこを指や舌で犯した。  天使は身体を弛緩させたまま、全てを受け入れた。    性器を扱かれ、穴に舌や指を挿れられ、何度もイカされることを、天使は受け入れた。   悲しい声がその唇から零れる。  その声と青い瞳から溢れる涙にソレは苦しんだ。  大体、天使が何故堕天したのかソレには理解できない。  天使は、ソレに襲われただけだ。  肉体の快楽さえなかった。  なのに、天界は天使を追放したのだ。  何一つ。  何一つ。  天使には非がないのに。  ソレは天使の太ももに自分のモノを挟んで擦りあげた。  天使のモノとソレのモノが擦れ合う。  天使は喘ぐ。  泣きながら。  その涙を舐めて。  優しく華奢な身体を抱きしめて。  ソレは最後に天使の身体でイったのだった。  中ではないけれど、十分満足だった。  最初の快楽ほどの鮮烈さはなかったけれど、愛しさをソレは生まれて初めて知ったのだった。  天使は死んだようにソレの腕の中で意識を失っていた。    ソレは天使を大切に抱きしめ、地底の洞窟で鎖に繋いだ。    逃げられないように。  逃げたなら、もう地上でも地底でも、天使は弱すぎて生きられないから、逃がさないために。  天使は無抵抗だった。  そして、ソレは毎日ゆっくりと天使のその身体を慣らした。  もう、傷や痛みを与えたくなかったから。  指や舌で慣らし、石を滑らかに削ったモノで、穴を広げていった。  自分の巨大なそれを無理なく受け入れられるまで、ソレは時間をかけたのだ。  その身体に手を伸ばす度、天使は泣いたけれど、もう抵抗はしなかった。  されるがままに受け入れた。  身体の全てをソレは愛した。  全身を舐め、口付け、吸い、噛んだ。  天使は泣きながらその舌に唇に歯に溺れる。  天使は堕天使らしく、快楽に堕ちていく。  その口は性器だった。  舌で舐められ、指で擦られているうちに、天使は口の中でさえ感じてイケるようになっていた。  巨大な性器を咥えて、動かしてやれば、それに舌をこすりつけ、上顎をこすりつけ、それでイク。  その乳首も性器だった。  吸われ噛まれることを喜んだ。  自分から舐めて欲しそうなに胸をさしだしてくるようになった。  そこを愛してやれば、身体は蕩けて、堅くしたペニスから白濁を吐き出す。  その穴も性器だった。  もう、指や舌、石では足りないと、自分から性器に穴を擦りつけてくるようになった。  耐えたのはソレの方だ。  でも。  でも。  泣くのだ。  どんなにイカせてる最中にも、蕩けて飛んでいるはずの境目であっても。  赦して下さい  そう言って泣くのだ。  赦しを天に求めるのだ。  天使には何の罪もないのに。  そして、諦めたように快楽の中で泣き続けるのだ。  天使を鎖でつなぐのは、天使が一人で死なないためでもあった。  天使は生きることを放棄していたから。  大切にした。  例えここが天使には地獄でしかなくても。  泣き続けるだけでも。  持てるだけの全てを与え、大切に抱いたのだ。  どんな物にも天使は興味をしめさなかったけれども。  天使の中にとうとう入った時は、死ぬほど嬉しかった。  天使は巨大なソレの性器を半狂乱になって受け入れた。  その乱れぶりにソレは泣きそうになるほど喜んだ。  涎をたらし、快楽に狂う天使にソレも狂った。  ソレと天使はひたさら繋がりあった。  境目がなくなるまで、抱き合った。  でも全ては天使には絶望でしかなく。  快楽も天使には堕落の責め苦でしかなく。  美しい天界を思って天に向かって天使は手を差し伸べ続ける。  イカせてるのはソレなのに、ソレがいない場所を天使は望み、イカされながら手を伸ばす  何の非のない天使を追放した天界へと。  ソレはセックス以外は泣くことしかしない天使に苦しむ。  ソレはもう天使を手放せない。  笑ってくれるなら手放してやりたくても、今、天使を守れるのはもう自分だけだから。  憎まれようが、恨まれようがソレは天使を守らなければならない。  追放された天使は自分のような化け物達の獲物でしかないから。  様々な化け物達が天使を欲しがりやってくる。  ソレは天使を守るために戦い傷付き続ける。    そして、天使を抱いて、天使を傷つけるのだ。  天使は泣く。  泣いてるか、セックスに狂うかのふたつだけ。  壊れていく天使。  涙さえ出さなくなりはじめた。  そのうち、セックスだけにしか反応しない人形になるのはソレにもわかった    何かあるはずだ。    天界に返してやれなくても。   出来ることがあるはずだ。  天使を地上に連れ出した。  マントで二人は姿を隠す。  巨大な男と美しい女のふたり連れに見えただろう。  天使の美しさはマントでは隠せない。  天使は女では無かったが、人間はこれほど美しい男の存在は知らないだろう。  ソレは人間にしては巨大過ぎたし、マントに隠された顔には目が一つしかなかったが、天使の美しさはそれさえ隠してしまった。  天使はぼんやりと歩く。  だが立ち止まる。  そこは国を焼かれた避難民達の街だった。  貧しく。   苦しむ人達の場所。  その街を焼きにくる人間達が見えたのだ。   その人間達は笑っていた。  醜い顔で。  彼らは避難民達をただ殺すために来たのだ。  その理由は、街の人々が避難民であるから。  それだけだった。  怯えて泣き叫ぶ避難民達。  天使には天界を追放された自分と避難民達が同じに見えたのか。  燃やすための道具と、嬲り殺すための武器を持ち、笑う人間達の姿に天使も悲鳴をあげた。  ソレにはその悲鳴だけで理由は十分だった。  ソレはその巨体で跳んだ。  醜く笑う人間達の前に。  信じられないほどの敏捷さで。  重い身体は、凶器よりも恐ろしい太い腕や脚が、マントを脱ぎ捨てられ露わになった。  ソレは、街を焼きに来た人間達を殺戮した。  人々を焼いて楽しむはずだった者達は、無表情なソレに手足や首をもがれた。  殺す側だった自分が死ぬことさえ理解できないほど速く殺されたから、彼らがしようとしたことに比べたなら、ソレがしたことは優しかっただろう。  ソレはサクサクと人間達をころした。  全てを終えて振り返ると、天使は怯えて泣いている子どもを抱きしめていた。  天使が子どもを慰めていた。  それは、ただ、泣くか快楽に狂うかしかしなかった天使の、初めて見せる違う顔だった。  ホッとしたように子ども達に微笑む天使。  ソレは贖うことを決める。  天使がこの世界に存在出来る場所を作ることで。  小さなこの街。  そこに天使が密やかに生きられるように。  難民達をそこに引き受けたのも、全て天使が望んだから。  恐ろしい化け物は力ない天使のためだけに、小さな小さな世界だけを守りぬく。  ソレはもう天使には触れなくなっていた。  いてくれるだけでいい。  飢えが自分を食い尽くしてもいい。  ゆるされなくていい。  自分にじゃなくても笑うようになった天使が全て。  天使は街の人間達には笑うようになった。  街の人達とどうやって生き抜くかを考えるようになった。  医療の知識、文字、力は失っても残った知識で、この小さな街を支えていく。    街を狙ってくる人間達と、天使を狙ってくる化け物達。  ソレはそれらと戦った。  時に街の人々と協力し、時に天使の知識を使って。  天使が笑う。  それだけで良かった。  夜は天使のベッドの足元にうずくまる。  寝息を聞けるだけで良かった。    ソレは幸せになった。  天使が笑うから  そして、ある夜  「寒い」  突然天使が言った。  ソレは慌てて何か掛けるものを取りに行こうとした。  「寒い」  細い白い腕がソレの太い腕を掴んで言う。  だから何か取りにいこうとしている、そう言おうとして天使の顔の赤さにソレは気付く。  ソレは戸惑い意味を掴みかねる。  じれた天使にキスされて呆然とする。  「寒いんだ」  天使は消え入るように言った。  細い白い指は震えていて、その目は濡れていて。  でも、あの悲しみで濡れた目ではなくて  ソレは号泣しながら天使を抱きしめた。  拒否されなかった。  これは赦し?  それとも?  何でも良かった。  望んでくれた行為に歓喜し、久しく触れてなかった肉体に溺れた。  大切に触れた。  朽ちた羽根を撫で愛撫した。  この羽根を失ったから、天使はここにいる。  口の中を犯すのではなく、キスをした。  天使は震えていて。  でも、その美しい目が醜いこの姿を見つめているから、止めなかった。  「お前の目、綺麗だな。綺麗な赤色。夕日の色だ・・・ずっとそう思ってたんだ・・・」  天使は一つしかない、不気味な巨大な単眼を見つめて言った。  その夜、泣いたのは天使ではなくソレだった。  泣きながら天使の身体を愛した。  深く深く奥まで入りこめば、天使は喉をそらせ、目を剥く。    その喉を吸った。  零れる声が喉の皮膚を通じて舌で味わう。    揺さぶれば天使の性器が白濁を吹き出す。  締め付け、蠢き、ソレから搾り取ろうとしてくる中を擦りたてた。  奥をこじ開け、そこを嬲れば、天使は背中に爪を立てて、声をあげた。  天使からの痛みは、ソレにはたまらなく甘かった。  天使は淫らで、欲しがりで、可愛くて、愛しかった。  喉の奥まで突っ込み、注いだ。  精液をこぼす穴に舌を入れ味わった。  可愛い乳首を色や形が変わるまで、可愛がった。  天使があまりに欲しがるから。  ソレも欲しくて。  応えられる行為に恐ろしい化け物は泣きながら没頭した。  天使の意識がなくなるまで      天使と化け物は街で暮らした。  力無く寿命ももう人間と変わらない天使が死んでからも、化け物は夜は天使の墓の側で眠りながら、街を守り続けた。  天使が望んだから。  化け物が生きている間、その街には平和があったという。  これはそういう話。 おわり

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