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第1話

 妻とお義母さんを同時に失ってしまった俺とお義父さんは寄り添うように一緒に住むようになった。 「悠希君、ただいま」 「おかえりなさい、裕也さん」  キッチンに入ってきた裕也さんは鼻を動かしながら僕の手元を見た。 「いい匂いだなあ〜と思ったら、今晩、唐揚げ?」 「はい。もうすぐ揚り終えるので、席に着いていてください」 「うん、ありがとう」  明らかに語尾が上がった裕也さんに微笑み、彼は待ちきれない様子でネクタイに手をかけ、目の前のリビングへと向かった。 (あっ、)  ふんわりと甘い香ばしい香りが立ち込める。当の本人はこちらに背を向けているからではなく、気が付いていないが、それは紛れもなくΩのフェロモンだった。彼らのフェロモンはαやβを誘惑させてしまう。特に発情期間近のものは毒にもなる。下腹部に溜まる熱に罪悪感が打ち消されそうになってしまう。 「悠希君?」 「は、はい」 「大丈夫かい、熱い?良ければクーラー付けようか……?」  言うが早いか彼は机のリモコンを取ると、ピ、とエアコンを起動させた。こっちを見た時、僕の顔が赤くなっていたんだろう。  筋肉質な首から肩に流れた汗が立派に膨んだ大胸筋の谷間に落ちていく様子に、ごくり、と生唾を飲み込む。  気遣いが出来る裕也さんは近場で勤務している保険会社で今年、副部長に昇任したらしい。まだ五十になっていない彼がその役職に就いたこと自体、異例らしいが社内での人望は厚く、裕也さん目当てで相談に来るご婦人方もいるらしい。仕事もスピーディーでクライアントに合ったプランを丁寧に教える仕事ぶり。 しかし、そんな聡明な彼の藍色の瞳には俺の欲情は見えていないだろう。  彼の筋肉質な首から肩に流れた汗が、立派に膨らんだ大胸筋の谷間に落ちていく。強調まではいかないシックスパックの腹筋に、筋が通った窪んだ臍。管理もきちんとされた健康体はこの猛暑のせいでほかほかと蒸れており、俺は生唾を飲み込んだ。 (ヤバい……、裕也さん……っ)  じんと下半身の中心が痛むが、そんなこと気にしていては生きていけない。脳内の欲を振り払うように頭を振り、「ありがとうございます」と礼を述べる。もしかしたら、と危惧してα抑制剤を昼に飲んでおいて正解だった。

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