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第4話

 どちらかといえばバックが好き。背後をとられると不安が高まる。その高まりのおかげで感度も跳ね上がるみたいで、お客に悦んで貰うには最適だった。  だが、彼女は違ったようですぐに怖がって泣いてしまう。「私のこと嫌いなの?」とまで来た。別にそういう訳ではないんだが、と弁解をしたくても前の職業がバレては厄介だからやめておいた。 「悠希く、ゆ……っ、あっ、あ……みない、で……」  目の前の男は両腕で顔を隠す。隙間から見える彼の顔は真っ赤になっていた。 「見せてください、裕也さん」  体重を組み敷いた彼にかけ、隠す腕ーーではなく、無法地帯になった黒い草むらへと手を伸ばす。一本一本が汗でびっちゃりと濡れ、何度も揉み込む。 「……っ!やめ、っ……」 「顔を見せてくれたらやめますよ」 「〜〜っ……!」  体は重ねていても直に触れている訳でない。にも関わらず、彼は立派な乳を揺らし、脚をムズムズとさせていた。  観念した裕也さんはゆっくりと腕を退けていく。不安げに寄せた太眉、紅をつけたような膨らんだ唇、下瞼に綺麗な水溜まりが出来ていた。 「あなたはやはり愛おしいです」 「ゆ、う、き……くっ……んっ……」  湿った熱い唇はいつ重ねても最高に気持ち良い。歯列をなぞり、舌を絡ませ、口内を舌で暴けば、とろとろとした唾液が俺の口内にも入ってくる。 「んっ♡♡!!おっ、ぁ……!」  自身の手を大胸筋へと滑らせれば、肉厚のあるそれは指がすぐに埋まってしまう。汗をかき、肌触りはしっとりとしていて、揉む度に裕也さんは甘い声を出す。 「はっ、裕也さんはやっぱり雄っぱいがお好きなんですね」  銀の糸で紡がれた糸はすぐに切れて彼の谷間に落ちる。  両胸にある沈んだ穴に指を入れると、裕也さんは瞬きをし、涙が飛沫となる。 「あっ♡♡あ、ああっ……♡♡」  中に埋まった柔らかな蕾を転がせば、すぐに硬みを増して膨らんでくる。外に出すのは容易いことだった。 「ふふ。もう癖になっちゃいましたか」 「悠希君が気持ち良くして、くるから……んっはぁ……♡」  ぶるんぶるんと激しく上下に動く胸に指を持っていかれそうだ。  熱のこもった目と視線が絡み合い、徐々に濃くなっていく甘い香りを吸い込んだ。 「このままだと、母乳が出ちゃいますね、お義理父さん?」  ビュッ!下品な音が下腹部から聞こえてきて、自分の腹がベタベタとしていた。  ソファに置かれた手が僅かに浮き上がり、それを見逃さなかった俺は手首をしっかりと彼の頭上で固定すると、瞳に涙の膜が張っていた。 「っ、あ"ッ♡♡!!」 「力抜いてください。大丈夫です、Ωの発情期のおかげで愛液が溢れていますから」  若い頃はしまっていたらしい肉のついた尻に空いた方の手を回し、丘に埋めると粘着質な液体が盛れていた。足先までピンとさせる彼を重んじ、彼の腹の辺りを滑る自らの肉棒に手をかける。指の間にまでたっぷりとつけ、もう一度、蕾へと持っていく。 「や、ぁっ、ま……♡♡待って、ゆ、ぅき……くっ♡♡」 「待ってもあなたが辛いだけでしょう?発情期も近いというのに、薬も飲まず、定期的に体も拭かないなんて。野獣が襲ってきますよ?」 「ひぁ……♡♡もっ♡♡や、……っ♡♡」  簡単に二本飲み込むほど名器化した裕也さんは震えながら荒く呼吸をしている。彼の吐息はさきほどのミルクの匂いがし、生唾を飲み込んだ。 「こんなんじゃあ、知らない誰かに種付けされて、鎖をつけられて妊娠しちゃいますよ?あ、もしかしたら奴隷にされちゃうかもしれません。裕也さん、人が良すぎるから簡単に騙されて精子ビュービュー出されちゃうかもしれません」 「ど、れい、や……だ、で…っ♡♡それ、に、僕は……あっ♡♡」 「大丈夫ですよ、αかβの女性でお尻をたくさん開発して、排便の時すら射精しちゃう変態に裕也さんがなったとしても尽くしてくれる女性は、たーくさんいますよ?」 「ごめっ、ごめんなさ……っ、〜〜、〜〜っ♡♡!!」  藍色の瞳に♡のライトが見え、涎をだらだらに垂らして自分で腰を振っては何の説得力もない。二度目の吐精を終え、アナルの肉壁は指を離す気がないように思えた。 (やり過ぎたかな……)  昔ーー妻と出会う頃は知人の経営している風俗で働いていた。生きるために遺されたお金は十分にあるし、当時は絶倫プリンスという異名を付けられたが、そんなに性に対し、特別なものはなかった。昼の居酒屋バイトくらいで人生は全うしていた。 だが、俺の両親は許嫁を決めていたらしく、それが彼女だった。彼女は純粋無垢で花のような人。もちろん、愛していたし、失った時は半年ほど落ち込んだ。 可哀想にとさえ同情してしまう。彼はΩで、突然、愛する奥さんを失ってしまった。それは同時に世界にた一人しかいない番がいなくなったのということだ。 「だめ、だめ……っ、ゆ、うき……くっ…、いっっ!!」  でも、俺の本能は彼を欲している。ただ単にΩのフェロモンによって狂わされているのではなく、一目惚れした、初恋の彼だからこそ。 「裕也さん、あなたが……欲しい、ですっ……!!」 「あ"っ!あっ、おっ、♡おっほ、あっお……♡♡♡」  腰を絶えず打ち付ければ、もう緩みきり、雄を受け入れることに慣れた蕾の隙間から白濁の熱い汁が溢れてくる。はひはひと呼吸は乱れ、柔らかい肉棒からはだらしなく黄金の水が出て、彼の胸を汚していく。綺麗に舐め取れば、すんすんと上から泣き声がした。 「ご、ごめんなさ……歩美ちゃ……。おとこ、のひと、すきで、ごめんなさい……っ」  ぐしゃぐしゃに泣く彼を見つめる。  そう、彼ももちろん人生を全うし、悔いなく生きていたはずなのに、とある日……俺の職場に来たことがある。 「僕が……きみを、まもるって、ちか……ッた、のに……っ」  顔合わせするよりも前。つまり、お客様として。強いお酒と汗とフェロモンの匂いを纏わせた彼は泣きながら辿り着いたらしい。スーツは泥と何かによって汚れ、最初は人として助けた。 「ゆう、き……く……。きみにも、ごめんね、……性の吐け口み、たいに、あつか……って、しまって……っ。あぁああ………っ」 (そんなことあるもんか。あなたは俺に優しくしてくれたでしょう?)  仕事柄、お客様のために鍛え上げた罵倒スキルが身についてしまい、行為中は意識してないと出てしまう。そんな時だって彼は俺を大きな胸で包み込み、決して拒否したりはしなかった。 鈍感だからか、「シたい」という欲は見えないみたいだけど、それはそれで良かった。 「裕也さん、大丈夫です。これからは二人でお互いを守り、守られながらやって行きましょう?」  涙と鼻水を指で拭い、やっと泣いていた彼と視線が合う。汚れがひとつも無い、綺麗な瞳。やはり、育ての親に似るんだなあと思ってしまう。 「俺たちはそういうやり方、俺たちのやり方で生きていきましょう?」  微笑むと、彼はまた涙をこぼす。歳を取るとそんなにも泣き虫になるのかなあ? 「悠希く、ん……。ありがとう」 「ええ。こちらこそ、ありがとうございます」 「僕、幸せになる……よ。歩美ちゃんと、望ちゃんの分まで……」 「はい。その方が二人も喜びますよ、きっと」  例え血が繋がっていなくても、望は嬉しいはずだ。だって、毎年家族の誕生日、父母の記念日は必ず家で過ごすからデートは無しというほどなんだから。 「……あ、あのね、」  新しい服を用意し、ソファに消臭剤をかけているとパジャマに着替えた裕也さんが現れた。 「どうしましたか?」  彼は指を弄ったりしつつも、意を決した目で俺を見る。 「あ、あし、明日……、空いてるかな?」 「明日ですか?……午後からなら大丈夫ですよ」 「そっか。なら、なら……首輪買いに行くの、付いてきてくれない……かな?」 Ωにとって首輪とは番以外からうなじを噛まれるのを守るための必要不可欠なものだ。番を失った裕也さんも危機感を覚えたのだろう。最近は技術も進歩し、首輪自体に抑制剤と同じ働きがあるものも専門店で取り合っているというニュースを見た。 「分かりました。では、5時にモール前で待ち合わせしましょうか」  彼は感謝を言うと、寝室に戻っていった。  残された部屋はとても静かで、まだ彼の残り香がふわんと香った。 『君、本当に優しいんだね』 「優しい、か……」  そんな評価、人生で受けたこともなかった。彼に惚れたのはその一言が大きなきっかけだろう。  αだって番を失えば多少なりとも精神的にもくる。それを理由に求めたくはない。  だが、もし、第二の人生があるのなら彼と番になりたい。そう思う自分もいるにはいるのだ。  ぽと、ぽと。  鉄の味が口に広がると思えば、唇をかみきっていた。

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