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第3話

「美味しかった〜」 「お粗末さまです」  裕也さんは下戸でよく食べる。二人分以上あったはずの食卓の皿はほぼ空になっていて、作りがいがある 「本当に毎日ありがとうね。どれも凄く美味しかった」 「ふふ。また作って欲しいのがありましたらいつでも言ってくださいね」  積み重ねた皿をシンクの水につける。普段ならすぐに洗い物にとりかかるが、今日はそのままにして冷蔵庫に手をかける。俺の行動を不思議に思った裕也さんはさすがだと思った。 「今日は、それだけじゃないんです」  一段目に冷やしておいたミルクプリンを取り出す。テーブルに持って行こうとすると左右にぷるぷると艶やかなプリンが左右に揺れる。 「どうぞ、召し上がってください」  裕也さんの目の前にそれを置くと瞬きを繰り返しては、俺とプリンを交互に見る。眉は八の字に垂れて困っている顔も可愛かった。 「こ、これって……悠希君……?」 「裕也さんのだーいすきなアレですよ?」  プリンといえば裕也さん、裕也さんといえばプリンと自身でも言うくらいこの人はそのスウィーツが好きだ。コンビニでも新作があるとすぐに買ってきてしまう。 「それに、ほら……。甘いの好きな裕也さんのために、練乳をとろとろとかけてあげますね」  艶のある白い液体が表面に触れるなり、滴が弾き飛び、二つ重なった丸いプリンの間を通っていく。頂点に立てた赤い苺も落とさないように銀の匙で掬い上げ、彼の血色の良い唇へと持っていく。 「はい、あーん」  プリンとぷるぷるの唇が何度もキスをしている。いいな、俺と代わって欲しい。  渋々口を開けた彼の口内にプリンを押し込む。何度か咀嚼すると、喉仏が上下に動いた。戸惑いの瞳が横を俺を見、躊躇っている彼の代わりに口を開いた。 「美味しいですか?」    こくこくと頷く。熱い息が口から漏れ、耳朶から目元にかけて赤く染まっていった。 (あ、いい匂い……) 「ひゃっ!?」  仕事柄、かっちりとしたスーツが多い裕也さんの私服はパーカーや鎖骨まで見えるシャツが多い。無防備な首元に鼻を埋めると、Ωの匂いが一層濃くなる。酸っぱく香ばしい匂いも同時に楽しめるなんて、最高の人だ。 「美味しそう……」  ぶるりと裕也さんは身震いした。恐怖か?軽蔑か?それとも……。 「……て、く……れ……」  掠れた声が聞き取りづらく、埋めながら「なんです?」と聞き返す。別に意地悪でもなんでもなかった。それを彼はまた別の何かと勘違いしたんだろう。か細い呼吸が何度も聞こえ、 「食べて、くだ……さい、悠希く、ん……っ」  食材の顔になったのだ。

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