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第22話

近所のスーパーに歩いてやってきた。 意外にも彼は普通のスーパーで安い食料を買うらしい。 家も一人で住むにはあまりにも広かったから、お金持ちなのには間違いないけど。 「真樹は嫌いな物ある?」 「酢の物は苦手です。食べれますけど。」 「他は?」 「他は別に。凪さんは?」 「嫌いな物は無い……って格好つけたいところだけど、正直俺も酢の物は苦手。俺達の食卓に酢の物は無いから安心してね。」 また新たな発見だ。 面白くてクスクス笑っていると、手を取られて握られる。 「っ!凪さん……!」 「恥ずかしい?」 「……それもあるけど、俺、男だから……」 男同士の番がいないわけではない。 けれど偏見の目は存在している。 「気にしないで。真樹。」 「……」 「真樹、俺の言葉だけ聞いて。大丈夫だから。」 ヒソヒソ、他のお客さんが話している声が聞こえてくる。 嫌だ。人から後ろ指を指されるような事は今までした事がなかった。そんなことされたくない。 「真樹」 「っ……」 今までアルファとして生きてきた俺は、あまりにもプライドが高いらしい。 「ごめん、なさい……」 やんわりと手を離すと、彼は苦笑を零した。 非難されることは無いけれど、自分が一種の裏切りを行ったような気がして気持ちが沈む。 こんなことなら家にいればよかったかもしれない。 「大丈夫だよ。無理させてごめんね。」 「ごめんなさい……」 謝ることしか出来ない。 こんなに優しい人を傷付けるなんて最低だ。 *** 買い物を終え、荷物を持って歩く帰り道。 行きよりも空気が重いのは完全に俺のせい。 彼は気にせずに話してくれるのに、俺が上手く応えられない。 「真樹、疲れた?」 「……疲れてないです」 申し訳なさが倍増していく。 「さっきの事なら気にしないで。俺が悪かったんだよ。急に手を繋がれたら誰だって困惑する。」 「……でも俺は、貴方の物になるのに……」 「俺の物だって言っても、真樹は真樹だ。自分の思うがままに生きていればいい。何でも俺の言う通りにするなんて楽しくないだろ。」 「楽しく……」 「うん。真樹の思うように生きよう。」 俺のために、俺が人生を楽しむために。 そう考えてくれる彼に、何か恩返しをしたい。 手を伸ばし、凪さんの大きな手に触れる。 驚いている様子の彼の顔は見れずに、そのままぎゅっと小指を握った。 「い、今は、まだ、これが精一杯、です……。」 「充分だよ」 彼がどんな表情をしているのか気になって、顔を上げる。 「──え」 「あ、ダメだ。見ちゃダメ。」 「顔、真っ赤だ。」 真っ赤な彼を見て、俺も体が熱くなる。 恥ずかしい。 でも、小指を離すことはしなかった。

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