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第21話
凪さんの家に帰り、俺用にと与えられた部屋で荷物の整理をした。
持ってきた服はクローゼットに入れて、大切な物は無くさないように机の上に置く。
それが終わると、ゴロンと床に寝転んだ。
時刻は午後五時前。少しお腹が空いた。
今日のご飯はどうするんだろう。俺が何か作れたらいいんだけど、生憎料理の腕前はゼロに等しい。
突然ノック音が聞こえ、慌てて体を起こし振り返ると凪さんがいて「終わった?」と聞いてくる。
「服は片付けました。」
「そう。俺は今から買い物に行ってくるよ。真樹は疲れただろうし、休んでいて。」
「えっ……お、俺も行きます!」
俺の用事に付き合ってくれた彼の方こそ疲れてる筈なのに、俺だけ休むなんてできない。
「何か欲しい物ある?言ってくれたら俺が買ってくるけど。」
「違います!あの……俺だけ休むとか、ちょっと嫌で……」
「え……?あ、もしかして……俺から離れたくないって思ってくれてる……?」
……いや、違う!今は別にそういう意味で言ったんじゃない!
俺がはっきり言葉にしなかったから勘違いをさせてしまった。
でもこれを訂正するのもまた違う。
「ぅ、そ、そう、です……」
「はぁ……。可愛い。抱き締めてもいい?」
それはもう、是非。喜んで。
頷いて近付くと温かい体温に包まれた。
抱き締められると、このまま離れたくないっていつも思ってしまう。
きっと彼にお願いすれば、受け入れてくれて、俺が満足するまでこうしていてくれるんだろうな。
「夜ご飯の材料を買って作ろうと思ってたんだけど、どうせなら外で食べる?」
「凪さんはどっちがいい?」
「んー……」
彼の手が項を撫でる。
思わずピクっと反応してしまう。
「こうしてくっついておきたいから、家で食べようか。」
うっとりしながら「うん」と返事をして、顔を上げると唇同士が触れる。
ペロッと舐められて、おずおずと口を開けると舌が入ってきた。
一回だけした事のあるこれは、いっぱいいっぱいになってしまうから少し苦手だ。
「はぁ、ぅ……ふ……」
唾液が飲み込めずに、口の端から零れていく。
唇が離れ、ぼんやりしている間にそれを舐め取られてハッとした。
「ごめんなさい……」
「ん?何が?」
「俺、キス下手くそで……」
「そんなこと?初々しくて可愛いよ」
クツクツと笑う彼が格好いい。
俺、こんなに格好いい人と番になるかもしれないのか。
全く見合っていない気がしてきた。
「買い物行こうか。」
「はい」
差し出された手を掴み、一緒に家を出た。
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