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第20話
何気無しに呟いた言葉。凪さんはぐっと唇を噛んで俺を抱き締めてきた。
「そんなに思い詰めないで。真樹は俺の大切な人だ。俺にとってはかけがえのない人だよ。」
「……」
いつも虚勢を張っていた。自分を大きく見せようとした。
それを続けた結果、仕事でしか友達と会わなければ、両親とも……誰とも会うことは無い。
ストレスが溜まっても発散する場所も無く、何とか自分の中で消化し続けた。
「真樹がアルファじゃ無くなったからと言って、生きる理由が無くなるわけじゃない。」
「……俺にはその『生きる理由』がわかりませんでした。」
今はなんとなく、彼に愛すことがそうなんだろうなと思う。
そう思える程には、彼に心を許している。
「真樹の生きる理由は俺に愛されることだ。……それだけじゃ足りない?」
「え……」
「俺に愛されて、愛されてるって実感して。」
頬を撫でられ、その手に導かれるように顔を上げる。
唇が塞がれゆっくり目を閉じると、熱が伝わって心が癒えていく気がした。
発情期は終わったのに、凪さんに触られたいと思うのは何でだろう。
体が離れ、ぐっと唇を噛む。
「参ったな。真樹にどうしても触りたい。」
「……ぅ……だめ、です……。片付けをしないと……」
「……そうだな」
苦笑した彼は、俺の服の入った荷物を持つと「先に車に置いてくる」と言って部屋を出て行った。
玄関が閉まる音が聞こえて、ヘナヘナと床に座り込む。
「まずい……」
愛情の供給過多だ。
彼に惚れてしまって、愛情を沢山与えられて、心臓が保ちそうにない。
「でも、でも……!生きる理由が愛されることって……!」
愛されてるって実感してって!
「格好よすぎる……!」
俺がアルファだったとき、そんなセリフを一度でも言ってみたかったな。
言う相手がいなかったけど。
立ち上がり、頬を両手でパチンと挟み、気持ちを切り替えて片付けを始めた。
ゴミ袋に要らないものを捨てていく。
一時間もすれば部屋は綺麗になって、あとはリサイクルショップに買い取ってもらう物だけが部屋に残った。
スッキリとした気持ちで部屋を出る。
ずっとつっかえていた思いも、無くなった気がした。
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