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第48話
午後から出掛けた専務は終業時間前に帰ってきた。
中林さんはそのまま直帰したらしい。
専務が不在だった間にあった電話の内容を伝え、俺の仕事は終わり。
デスクで帰宅準備をしていると、電話が鳴り専務から専務室で待っていてほしいと言われて、荷物を持ち部屋に入る。
「ごめんね。すぐ終わらせるから」
「いえ、大丈夫ですよ。」
椅子に座らせてもらい、そこで何をするわけでもなくただ暇な時間を過ごす。
首が凝ったなと首元に触れるとそこにあるチョーカー。質感がマットで着けていてもあまり気にならないこれはお気に入り。凪さんから貰った大切な物。
「嬉しそうだ」
「え?」
「チョーカー。気に入ってくれてるみたいでよかった。」
「……はい。すごく気に入ってます。でも二ヶ月後にはこれが無くなるんですよね。ちょっと寂しい気もするのでそれまで肌身離さずにしておきます。」
初めて凪さんから貰ったプレゼントだから、生涯大切にしよう。
勝手に口元が緩んでニヤニヤしてしまう。
隠したつもりだったけれど、もしかしたら凪さんに見られてしまったかも。
チラッと彼を盗み見ると手元に集中していたから、どうやら見られていなかったらしい。ニヤけた顔を見られなかったことに安心した。
七時前になって漸く仕事を終えた彼とエレベーターに乗る。
時間も時間だしと、地下駐車場まで止まることなく下りれると思っていたけれど、前に働いていた部署のある階でエレベーターが止まってドキッとする。
ドアが開き、人が入ってくる。
その中に以前一緒に働いていた人がいて、慌てて顔を伏せた。
凪さんの事を専務だとわかっている人達が、彼に「お疲れ様です」と声を掛けている。
息を殺してただ人が居なくなるのを待った。
俺達以外全員が一階でエレベーター降りて、漸く二人きりになる。途端ホッと息を吐けて体から余計な力が抜けた。
「大丈夫か?」
「……すみません。前の部署の人がいて……」
「バレるのが嫌?異動の件は伝えているよ。」
「ちょっとだけ。でもずっとそうも言ってられないので、大丈夫です。誰も俺がオメガになった事なんて知らないんだし、堂々としていればいいんですよね。」
「性別が変わったことは俺以外誰も知らない。どうして異動なのか聞かれたら、その時は上の指示だって言えばいい。」
駐車場に着き、エレベーターを降りて車に乗る。
そう。上の指示でと言えばそれで終わり。
誰にも性別を知られることは無い。
いきなりで驚いただけだ。何も気にしなくていい。
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