66 / 195

第66話

「誰にも言わないでください……!」 「ちょ、ちょっと、落ち着いて……」 「お願いします。誰にも……誰にも言わないで……」 彼女はオメガ性に偏見が無かった。 だからこそこのお願いは聞いてくれるはず。 「わかった!わかったから!」 「っ、はぁ……」 頭を上げて彼女を見ると、困惑した表情をしていた。 「どういうことなの……?堂山君、アルファだったじゃない。」 「……昼休みか退勤後、時間ある?その時に人のあんまりいないところでゆっくり話したい。」 ここで話すには少し抵抗がある。 「わかった。昼休みに連絡する」 「ありがとう」 ドキドキする心臓を押さえて、深く息を吐く。 彼女は心配そうに俺を見ていて「大丈夫なの?」と聞いてきた。 「大丈夫」 「詳しくは後で聞くつもりだけど……安心して。誰にも言わない。約束する。」 「……」 「安心して。」 「……うん。ありがとう」 もう一度お礼を伝えて、彼女と別れエレベーターに乗る。 自分のデスクのある階まで上がり、中林さんが出社しているのを見て「おはようございます」と伝える。 彼女は同じ様に挨拶を返してくれて、それを聞いて会釈してから専務室に入った。 この胸のドキドキを治めたかった。 「専務」 「堂山君、ありがとう。……真樹、何かあった?」 「凪さぁん……」 凪さんは直ぐに俺の傍に来て抱き締めてくれる。 安心してもたれ掛かると、無意識にホッと息を吐いた。 「前の部署の人に何か言われたか?」 「いえ、でも……前に隣の席だった新木さんという女性にチョーカーが見えてしまったみたいで、オメガだとバレました。昼休みに少し話をしてきます。」 「……その新木さんはアルファか?」 「はい。よく話をしていました。仲は……良いか分かりませんが、あの人は優しい人なので言いふらしたりはしないはずです。誰にも言わないって約束してくれました。」 「……何かあれば連絡すること。一人で絶対に悩まないこと。この条件を飲まないなら昼休みは行かせない。」 肩を持たれ、体が離れる。じっと目を見つめられて考える間もなく頷いた。 「わかりました。連絡するし、悩みません。」 「いい子だ。」 動悸は治まった。 自分のデスクに戻り椅子に座る。 漸くメールのチェックをして、今日の業務に取り掛かった。

ともだちにシェアしよう!