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第65話
***
土曜日の夜は結局、夕方に俺を抱いたからと、また彼に抱かれることは無かった。
日曜日はゆっくりと過ごし、やってきた月曜日。
体調は全快で、凪さんと一緒に出社しデスクに座る。
珍しい事に中林さんはまだ来ていなかった。
始業時間までの準備を済ませていると、専務が黒のファイルを持ってやってくる。
「堂山君、これを商品企画部の部長に……」
そう言ってファイルを差し出してきて固まった。
商品企画部……それは俺が前にいた部署。
彼はそれを思い出したようで、途中で言葉を止める。
「あ、いや、いい。中林さんに頼むよ。」
「いえ。私が」
「無理はしなくていい」
「問題ありません」
いつまでもウジウジしてはいられない。
差し出されたファイルを受け取る。
「すぐに行ってきます」
「あ、うん。よろしく。やっぱり無理だと思ったら──」
「大丈夫です」
彼の言葉を遮り、礼をしてからフロアを抜ける。
エレベーターに乗り目的の階のボタンを押す。
「ふぅ……」
大丈夫。何か聞かれたら異動しただけだと伝えればいい。問題ない。
エレベーターが停り、降りる。
商品企画部に足を運び部長が見当たらず、とりあえず「すみません」と声を掛けると、俺の声に反応して振り返ったのは新木さんだった。
「堂山君じゃない。」
「ぁ、お、おはよう。新木さん」
「急な部署異動だって聞いて驚いてたの。」
「ああ、俺も驚いたよ。ああ、それよりもこれを。部長に渡しておいてほしい。」
「わかったわ。……今はどこの部署にいるの?」
そう聞かれるのは想定内だったので、動揺すること無く「専務の秘書」と伝えた。
彼女は驚いたように目を見張る。
「秘書って……堂山君って誰かに仕えるようなタイプだっけ?」
「楽しいよ」
四六時中、愛しの彼と一緒に居られるのはどんな状況でも楽しいし嬉しい。小さく笑うと途端に彼女は表情を無くした。
「……ねえ堂山君」
「うん、何?」
「……それ」
彼女の指が俺の首を指す。
もしかして見えてしまったのか。慌てて首に手をやると、彼女は口を手で覆う。
「ぇ……オ、メガ……?」
「っ!」
咄嗟に彼女の手を掴んで人の居ない場所まで移動する。
そこで勢いよく頭を下げた。
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