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第64話
***
体はもうクタクタだ。
寝返りを打つのも億劫で、ただ天井を眺める。
「真樹」
「……」
名前を呼ばれたけれど、返事をしようにも声を出しすぎたせいか喉が痛い。
顔を覗き込んできた彼の名前を呼ぼうとした。俺が喉を痛めていると気付いたのか、水を持ってきて飲ませてくれる。
「お風呂入ろうか」
「……はい」
「あー……動けそうにない?」
「むり……」
意識を保ったままでいれたことをまず褒めてほしい。今にも寝そうだけど。
いや、それより何より。凪さんは俺に謝るべきだと思う。
「凪さん」
「はい」
「……俺に言うことありませんか。」
睨みつけると、彼は床に正座して頭を下げた。
「すみませんでした。」
「……許します」
そこまでされると思っていなかったから驚いた。
土下座なんて……中学のあの事件以来だ。
相手方のオメガ性のご両親が必死になって謝っている姿を思い出させた。
「真樹がいいなら、今から俺が真樹を運んで体を洗ってあげたい。濡れてるのも気持ち悪いだろ?汗もかいたし……」
「……重たいですよ俺。」
一瞬、返事をするのが遅れた。
あの事件は俺のトラウマになっている。
「大丈夫」
「え……?」
「ん?真樹は重たくないよ」
「あ……ああ、なるほど。」
凪さんの言った『大丈夫』が俺のトラウマに対するものに掛けられているのかと少し困惑した。
でも全く違ったらしい。気付かれないように小さく息を吐いて頷く。
「じゃあ運ぶね」
「あ、待ってください。起き上がるから手だけ貸して」
「腰痛いんじゃないの?起き上がれる?」
「起きます。だから手を!」
彼は俺とベッドの間に手を入れて、そっと起こしてくれる。そこで少し休んでからだるい体を何とか動かしてベッドから降りた。
「こんなにめちゃくちゃにされるなんて思ってなかった。凪さんのバカ。」
「……ごめんね。頭に血が上っちゃって……」
「凪さんの想い、ちゃんとわかったって言ったのに。」
睨み付けると、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
鋭く切れ長の目をしてるのに、そんな表情されると可愛く見えてしまうのは、きっと彼が好きだからだ。
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