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第68話
***
退勤時間になり、凪さんの車に乗って家に帰る。
「それで、どうだったの?新木さんとは」
「楽しかったです。元々新木さんはオメガに偏見を持っていなかったですし、事情を話せば納得してくれました。またご飯行こうねって言ってくれたし、新しい友達ができた感覚で嬉しいです。」
「それはよかった」
マンションに着き、部屋に入ると途端にドッと襲ってくる疲れ。特に何をした訳でもないけれど、朝から新木さんとの事でヒヤヒヤしていたのが原因だろう。
「お風呂沸かしてきます……」
「お願いするよ」
服を着替えてお風呂場に行き、浴槽を掃除する。
早く湯船に浸かってリラックスしたい。
掃除を終えてリビングに行くと、凪さんは料理をしていてキッチンにいた。
自動でお湯が湧くように設定し、凪さんの背中にくっつく。
「今日のご飯は何ですか」
「カツ丼です」
「わぁ、嬉しい。」
「よかった。ところで真樹、何してるの?」
「疲れたので癒されてます」
抱きついてくんくん匂いを嗅ぐ。
少し甘い匂いが香る気がする。
「凪さんからちょっと甘い匂いがする」
「え」
「何だろう?落ち着く……」
くるっと彼が振り返り、俺の手を掴んでリビングのテーブルの席に座らせたかと思うと、薬を差し出された。
「抑制剤を飲んで」
「え……何で?」
「真樹からフェロモンが漏れてる。発情期ではないと思う。それにしては薄いから。でも俺を誘うには充分。だから飲んで。」
「……凪さんを誘うには充分なの?それなら飲まない」
「真樹」
「凪さんに抱かれるの嫌じゃないもん」
へらっと笑えば彼は手で顔を覆う。
天井を見て「あー……」と今にも消えそうな声を発していた。
「凪さん?」
「……真樹はどうしてそう……」
「あ、でもお腹空きました。」
「……すぐ用意するよ」
困った表情の彼に俺は満足する。
土曜日は散々にされたので、ちょっとした仕返しである。
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