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第69話

夜になりお風呂に一人で入ってもう眠たいと、凪さんの寝室に入りベッドに寝転ぶ。凪さんの匂いがする。だめだ、我慢できない。 目を閉じようとした時、寝室のドアが開いて凪さんが入ってくる。 「まーき、真ん中で寝られると俺が寝られないんだけど?」 「あー……うん」 「真樹さん。おーい、寝ないで。」 「凪さん……」 「んー?」 ベッドの隅に座った彼は、俺の手を握ってそのまま優しく揉んでマッサージをし始めた。 気持ちいい。本気で寝てしまう。 「気持ちいい」 「寝るの?」 「寝る」 「じゃあもうちょっとそっちに寄って」 そう言われ、ゆっくり動き凪さんの寝るスペースを空ける。 隣に寝転んだ凪さんは、俺を抱き締めてそのまま眠ろうとする。 「んー……凪さん、重たい。」 「許して」 「うん」 凪さんがいるって感じられるから、嫌じゃない。 二人とも、本当にその体勢のまま眠って、朝起きた時は体が固まっていて動くのが少し痛かった。 「真樹、飲んでおいてね。」 「でもまだまだ先の予定ですよ」 抑制剤を渡されて、そう言うと彼は首を横に振る。 「前のは発情期とカウントしない方がいいのかもしれない。オメガ性に転換した時に必ず起きるものらしいから。」 「えー、じゃあ性別が変わったがために体がうまく働かなくて発情期に似た症状が長く続いたってこと?」 「そうかもしれないってこと。」 難しい。 自然と眉間に皺が寄る。 「いつ来るか分からないってこと?次に来た発情期を基準に周期が決まるの?」 「ああ。多分」 「……飲んでおきます」 会社で発情期になったらたまったもんじゃない。 あそこにはベータもアルファも居るんだ。もし何かがあった時、俺だけじゃなくて凪さんに迷惑がかかる。 抑制剤を飲んで溜息を吐いた。 面倒な体になった。 「あとこれ。絶対に肌身離さず持っておいて。」 「これ……」 俺が病院から貰っていた袋の中にあったそれを取り出し差し出される。 「知ってるだろ?発情期になってから抑制剤を飲むと効くまでに少し時間がかかるから、これを打って。」 「痛そうです。」 先に針が付いている注射型の抑制剤。 そもそも注射が苦手なので、これを使う時は一生来ないでくれと思う。 「でも真樹の事を守るために必要な物だから、しっかり持っていて。」 「……はい」 渋々頷き、受け取る。 少しでも体調がおかしいと思えば抑制剤を飲んで、何とか注射をしなくて済むようにしよう。

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