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第70話 ※

*** その週の平日は結局、発情期の症状は現れなかった。 顕著に現れたのは金曜日から土曜日に変わる頃。 華金だから凪さんと家でお酒を飲んでいた。 急に眩暈のような症状が現れて目を閉じていると、凪さんの匂いが香ってきて体から力が抜ける。 「真樹?大丈夫?」 「はぅ……真樹さんの匂い、好きです……」 「匂い?……あ、真樹、体熱くない?変にぼんやりしたり……」 突拍子のないことを俺が言ったから、それともフェロモンが漏れてしまっているのか、凪さんは発情期の症状が出ているんだと判断して、俺から酒を取った。 「お酒飲んだから薬飲めないな」 迷惑をかけないように、自分の部屋に篭ろうと立ち上がると、凪さんが慌てて腰を支えてくれる。 力が入ってない。一歩歩くのに体が重怠い。 「真樹、運ぶよ。」 「ううん、歩く……部屋戻る……」 「部屋ってどっちの?」 「俺の」 「一緒に寝ないの?」 首を一度縦に振り、彼に支えられながら部屋に戻ってベッドに寝転んだ。 「薬は置いておくから、夜中我慢できそうになければ飲んでね。」 「うん……凪さん……」 「大丈夫だよ。何かあれば直ぐにくるから、遠慮なく俺を呼んで。」 額にかかっていた髪を退けて、そこに唇が触れる。 離れようとする彼の手を咄嗟に掴んで、じっと彼を見つめるとベッドの縁に腰掛けた。 「真樹が眠るまでここにいるよ。」 「うん……好き」 「俺も好きだよ」 「愛してるって言って」 「愛してるよ」 「ふふっ」 ちゃんとした発情期は初めてで、少し不安。 前に味わったものより酷いのかな。自分が自分じゃなくなる感覚は怖い。 「おやすみ、真樹」 頭を撫でられる感覚がした。 気持ちいい。 スーッと穏やかに眠りに落ちた。 目が覚めたのはそれから数時間経った後。 はっと目を開けると、寝転んでいるのにフワフワした感覚が酷い。咄嗟に薬を手に取ったけど起き上がれずに水も飲めない。 「うっ、ぁ、やだ、凪さん、凪さん……っ!」 勝手にペニスに熱が集まり、後孔からは湿り気を感じる。 怖くなって体を丸め、股間が痛くなってきて愈々自分で扱くように手を動かした。 コンコン、ドアがノックされゆっくりと開く。 音が聞こえているのに手が止められない。 「真樹、薬は?飲んでない?」 「ふぅ、は……飲んで、ない……っ!」 「っは、まずいな……」 凪さんは部屋を出て、少ししてから戻ってきた。 その間に一度射精して何度も浅く息を吐く。 「真樹、発情期が来てる。俺が触ってもいい?」 「ん、っさわ、て……触って、いっぱい、気持ちいいのして……っ!」 上手く声が出てこない。 唇が彼のそれで塞がれ、その甘さに酔ってしまいそうになる。

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