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第74話
酸欠になって彼の腕を数回叩く。
漸く話してくれた彼は、今まで見た事がないくらい幸せそうな表情をしていた。
「俺の事が知りたいの?嬉しいな。それならすぐにでも予定を合わせるね。親父も母さんも真樹に会いたいって言っていたし」
「そ、そうなんですか?」
「うん。もう少し様子を見てからって思っていたけど、真樹がそう言ってくれるなら早めるよ。」
「ありがとうございます」
そう言うと、彼は眉を八の字にさせた。
「真樹、ずっと思ってたんだけど……」
「はい?」
「その、敬語はそろそろやめてくれないか。そうじゃないとはわかっているんだけど、距離があるみたいで寂しい。」
一瞬、意味がわからなくて固まってしまった。
距離があるみたいで寂しい?……そう思わせてしまったことがショックで口をあんぐりと開けてしまう。
「距離……距離なんて無いです……」
「うん。それはわかってるんだけど」
「敬語やめます。頑張ります。凪さんが言うなら!」
「ありがとう。でもそんなに意気込まなくても、ゆっくりでいいからね。」
「はい!あ、いや、違う……!うん!」
ずっと敬語を使っていたわけじゃない。時々崩れた口調で話すことはあった。
でも今は初めて敬語をやめようと思ったからか、ちょっと恥ずかしい。
「照れてるの?可愛いね」
「凪さんも可愛いよ」
「可愛い?いつも怖いって言われるけど」
「それは凪さんをよく知らない人が見た目を見て言ってるだけで、凪さんは可愛いよ。格好良いし、素敵な人。」
俺を助けてくれて、甘やかしてくれて、守ってくれる人。こんな素敵な人、彼以外に居ない。
凪さんは片手で顔を覆い「あー……」と小さく声を漏らす。
「真樹が可愛すぎて、愛しすぎて堪らないよ。」
そんな真っ赤な照れた顔で言われると、恥ずかしくなっちゃうよ。
多分、今の俺は彼と同じくらいに顔が赤いと思う。
「な、凪さんの馬鹿……」
「え、馬鹿なの。」
「馬鹿だよ。バカバカバカ」
「いや、まあ、この際馬鹿でいいけど、凪さんって呼ぶのもそろそろやめてほしいな。」
「……凪の馬鹿」
馬鹿って言ったのに、彼は嬉しそうだ。
「真樹に呼び捨てにされるのは初めてだから、凄く新鮮だ。」
「確かに。呼び捨ては初めてかも。」
「これからはそれでいいからね。」
「……いや、凪さんって呼びますよ。やっぱりご両親の前で間違えて呼び捨てにしてしまったりするかもしれないし、そうなったら困るので。」
「いいのに」
「俺が良くないんです」
「また敬語だし」
「……」
ジト目で彼を見ると困ったように笑う。
ずっと敬語を使っていたから、中々抜けてくれない。
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