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第96話

*** これまでに無いくらい、過ごしにくい休日だったと思う。 月曜日になり、噂が回っていませんようにと祈りながら出勤してデスクに着いた。 今日の午後から、専務は打ち合わせに出かける。 同行する中林さんで、俺は中林さんから預かった仕事をする為に、走り回る予定だ。 「ごめんね、宜しくね。」 「はい。行ってらっしゃい」 時間になり、一人になった俺は早速、頼まれた仕事の為に走った。 電話をしたり、預かったデータを資料化したり……。やることはいっぱいだ。 少し余った時間。商品企画部にデータの入ったSDカードを返しに行く。 「新木さん」 「あ、堂山君。」 新木さんを見つけて声をかける。 「何かあったの?」 「SDカード返しに来た。」 「それなら私が渡しておくわ」 企画部の奥にあるミーティングルーム。 そこから知った顔が出てきて体が固まる。 「堂山君?」 「っ!」 新木さんを見て、慌てて「じゃあ」と言い、エレベーターの方に行こうとして「堂山さん」と名前を呼ばれ、背中が震えた。 「……三森さん」 振り返り、名前を言うと、三森は嬉しそうに口角を上げる。 「一昨日ぶりですね。」 「そう、ですね。」 「少し話をする時間はありますか?ご飯でも行きません?」 そのニンマリした笑顔が嫌だ。 「今晩、どうですか。前回のミーティング以来あんまり話せてないから、久しぶりに堂山さんと話したいんですよね。」 「……」 でも、この嫌な気持ちを我慢して、三森とご飯に行き、誰にも言わないでくれと言えば誰かにバラされる心配も少しはマシになるかもしれない。 「わかりました」 「じゃあ、お仕事終わったら連絡下さい。」 この件については専務に連絡をしておくべきだろうか。 今、ただでさえ気まずいのに態々こんな内容を連絡するのは迷惑になる可能性がある。 そう思って連絡するのは止め、とりあえず専務が出先から帰ってきたら、今日は少し用事があると伝えよう。 自分のフロアに戻って、デスクに座る。 もう少しタイミングが違えば三森に会わずに済んだのに。 そんな小さな後悔が生まれて、少しずつ自分のことが嫌になっていく。

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