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第97話
専務と中林さんが帰ってきた。
俺は仕事を終えて、何も用がなければ三森の元へ向かうつもり。
中林さんと専務に手伝うことはあるかと聞いて、二人とも特に無かったので「お先に失礼します」と言ってフロアを出る。
凪さんにはきちんと、少し用事があると言って来た。
深呼吸をしてエレベーターに乗り、ロビーに出てから三森に電話をかける。
店だけ伝えられ、そこに行くと三森が先に席に座ってビールを飲んでいた。
「──にしても、あのプライドエベレストの堂山がオメガになってたとはなあ」
「……声量、下げてくれないか。」
「だってこんなに面白いことがあるか?大学でもオメガを見たら嫌そうにしてたお前が!」
酒を飲んでるからか、ただ俺を卑しめたいのか、声量のコントロールをしない三森に、周りからの視線が痛くなる。
俺がオメガだと薄々察したらしい周囲からの視線は、気持ち悪いものの他、なんでもない。
「話って何だ。何も無いなら帰る」
「オメガの癖に俺にそんな口利くんじゃねえよ」
「は……」
今起こったことに驚いて、口をあんぐりと開ける。
「散々偉そうにしてたお前が俺より下になって、楽しくて仕方ない。」
「っ!」
カッとなって立ち上がった。
荷物を持ってさっさとこんな場所から出ようと出口に足を向ける。
「堂山、お前、広められてもいいのか?」
「お、前……っ!」
「座れよ。」
泣きたくなる。
悔しくて堪らない。椅子に座り直し、膝の上で拳を作り我慢する。
「番は?できたのかよ。まあ、できたから噛み跡があったんだよな。」
「……関係ない」
早く帰りたい。こんな場所、何とか理由をつけてこなければよかった。
「嫌ってたオメガになった気分はどうなんだよ。番を見つけるのに必死だったのか?」
「……俺は確かにオメガを嫌ってた。けど、お前みたいに……そんな命令するように、オメガと接したことは無い。」
「嫌なものを見る目で見ていたじゃねえか。」
「それは……トラウマが、あって……」
落ち着かない。そわそわと手を動かす。
誰かにこの状況から助けて欲しい。
店の入口が開いて、客が入ってきた。
音がしたからそっちを見れば、そこには橋本がいて、彼も俺に気づき手を振ってくる。
そうだ。自炊をしない橋本は、よく外食をすると言っていた。今日もその日だったのか。
「堂山じゃん。お疲れ様。何か顔色悪くないか?大丈夫?」
「は、橋本」
「ん?……あー、あんたは?」
傍に来た橋本は、三森に視線をやる。
三森は俺の友達だと自己紹介してから、橋本に目もくれずに話の続きを始めた。
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