97 / 195

第97話

専務と中林さんが帰ってきた。 俺は仕事を終えて、何も用がなければ三森の元へ向かうつもり。 中林さんと専務に手伝うことはあるかと聞いて、二人とも特に無かったので「お先に失礼します」と言ってフロアを出る。 凪さんにはきちんと、少し用事があると言って来た。 深呼吸をしてエレベーターに乗り、ロビーに出てから三森に電話をかける。 店だけ伝えられ、そこに行くと三森が先に席に座ってビールを飲んでいた。 「──にしても、あのプライドエベレストの堂山がオメガになってたとはなあ」 「……声量、下げてくれないか。」 「だってこんなに面白いことがあるか?大学でもオメガを見たら嫌そうにしてたお前が!」 酒を飲んでるからか、ただ俺を卑しめたいのか、声量のコントロールをしない三森に、周りからの視線が痛くなる。 俺がオメガだと薄々察したらしい周囲からの視線は、気持ち悪いものの他、なんでもない。 「話って何だ。何も無いなら帰る」 「オメガの癖に俺にそんな口利くんじゃねえよ」 「は……」 今起こったことに驚いて、口をあんぐりと開ける。 「散々偉そうにしてたお前が俺より下になって、楽しくて仕方ない。」 「っ!」 カッとなって立ち上がった。 荷物を持ってさっさとこんな場所から出ようと出口に足を向ける。 「堂山、お前、広められてもいいのか?」 「お、前……っ!」 「座れよ。」 泣きたくなる。 悔しくて堪らない。椅子に座り直し、膝の上で拳を作り我慢する。 「番は?できたのかよ。まあ、できたから噛み跡があったんだよな。」 「……関係ない」 早く帰りたい。こんな場所、何とか理由をつけてこなければよかった。 「嫌ってたオメガになった気分はどうなんだよ。番を見つけるのに必死だったのか?」 「……俺は確かにオメガを嫌ってた。けど、お前みたいに……そんな命令するように、オメガと接したことは無い。」 「嫌なものを見る目で見ていたじゃねえか。」 「それは……トラウマが、あって……」 落ち着かない。そわそわと手を動かす。 誰かにこの状況から助けて欲しい。 店の入口が開いて、客が入ってきた。 音がしたからそっちを見れば、そこには橋本がいて、彼も俺に気づき手を振ってくる。 そうだ。自炊をしない橋本は、よく外食をすると言っていた。今日もその日だったのか。 「堂山じゃん。お疲れ様。何か顔色悪くないか?大丈夫?」 「は、橋本」 「ん?……あー、あんたは?」 傍に来た橋本は、三森に視線をやる。 三森は俺の友達だと自己紹介してから、橋本に目もくれずに話の続きを始めた。

ともだちにシェアしよう!