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第99話

「お互い様だと思うなぁ。専務は堂山を思って選択肢を与えたわけだし、堂山は責めるつもりはなくても、そういう言葉を言ってしまったわけだし。」 「……うん。反省してる」 「それから気まずいんだ?……ならちょっと、思い切って専務に甘えてみたら?」 「甘える?」 「うん。今日あったことも正直に話して、不安になったから安心させてって。」 「えー……でも俺、男だよ。オメガではあるけど、男にそんなことされても嫌じゃない?」 男にそんな事言われても、可愛さなんてないだろうし、むしろ一人でどうにかしろって思うんじゃないだろうか。 「いや、自分の顔面がどんだけいいかわかってる?」 「それなりに整ってるとは思うけど、可愛くはないよ。」 「いや、可愛いだろ。最初に言わなかったっけ。ずっと見てられる」 「……ありがとう」 反応に困って、とにかくお礼を言う。 「甘えるのに抵抗があるなら酒いっぱい飲んで酔えばいい」 「でも俺、正直に言うと普段から甘えてばかりな気がする。」 「嘘。あー、でもいいかも。気の強そうに見えて実は甘えたなのはいいな。よし。いっぱい酒飲め。」 「ダメだって。また一人で帰れなくなっちゃう」 「だから甘えるんだって。専務に電話して迎えに来てもらえ。」 「ただの迷惑なやつじゃん」 そう言っていたのに、話しているうちにいっぱい飲んでしまって、完全に出来上がってしまった。 テーブルに伏せる俺と、そんな俺のポケットからスマートフォンを取り出した彼。 「んー……橋本、何してるの……?」 「専務に連絡。電話掛けていい?」 「専務……凪さん?電話するの?」 「うん。掛けるね」 目の前で橋本が電話を掛けている。 ただの『迎えに来て』の電話の筈なのに、長く話をしていて、羨ましい。 「橋本、何話してるの……?俺も話したい……凪さんは……?」 「迎えに来てくれるって。だから水飲んで待ってような」 水を貰ってごくごく飲む。 そしてトイレに行き用を足して、席に戻ってまたテーブルに顔を伏せた。 「堂山は今日のことをちゃんと専務に伝える事。俺と約束しよう」 「やくそく」 「そう。不安な事は打ち明けて、番に安心させてもらうのがいいよ。」 「……うん」 眠たくなって、目を閉じる。 凪さんが迎えに来てくれる。それまで少し寝ても、橋本は怒らないだろう。 「専務が来たら起こすよ」 「ん……」 優しい友達に出会えて、幸せだなと思う。

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