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第104話

お風呂から出て、ソファーに座らされた。 凪さんはベッドを片付けに行っていて、恥ずかしさと申し訳なさで潰されそうだけど、今の俺は腰が立たないので彼に任せるしかない。 俺は明日、どうやって中林さんに話をしようかと考える。 俺がオメガで、凪さんが番だということを彼女は知っている。 今起こっていることと、それに対する行動を伝えないといけない。 「……自業自得とか言われたら……」 彼女は優しい人だから、そんなこと言わないと思うけれど、実際は分からない。 「真樹、もう寝れるけどどうする?」 リビングに戻ってきた凪さん。隣に座ってもらってその体にもたれ掛かる。 「明日中林さんに話すのは、いつ?」 「仕事が終わってから食事に誘おうと思う。真樹はどうする?不安なら明日は休んで、その話し合いの場に来てくれたらいいけど……」 「いえ、行きます。ちゃんと仕事して、それから……」 「わかった」 ふわふわ、あくびが零れる。 目を閉じそうになって、慌てて口を開いた。 「凪さん、ちょっと眠たくなってきた。」 「ベッド行こうか」 「うん」 彼に支えてもらいながらベッドに移動して、ゴロンと寝転がる。 優しく腰をさすられて、その温かさにまた眠気が増幅した。 「ん……おやすみなさい……」 「おやすみ」 ちゅ、と頬にキスをされたのを感じて、そのまま眠りに落ちた。 *** ガタッと、教室の床に押し倒される。 発情期を起こした同級生のオメガが、俺に覆い被さる。同じ男のそいつは、いつもより女に見えた。 『助けて、真樹君……っ』 『っ!』 心臓がやけにバクバクとうるさく音を立てて、勝手に熱が上がり中心に集まった。 『これ、ちょうだい……?真樹君、ね、いいでしょ……?』 『は、離れて……嫌だ、やめろ、怖い……』 近くにあったバッグを掴む。 何とか逃げ出そうと、そのバッグを男にぶつけると、よろけて床に倒れ込む。 オメガのフェロモンを辿り、教師陣がやって来た。 その後はただ慌ただしく、双方の両親を呼ばれて話し合いの席が設けられた。 一時的に発情期が治まった同級生は、俺の両親が被害届を出すと言い出した途端に、目の色を変えた。 その目を思い出す度、息が止まりそうになる。 あの目はとてつもなく、恨みの篭った目だった。 「──き、真樹!」 「っ!」 名前を呼ばれて目を開ける。 慌てて上体を起こし、辺りを確認した。 呼吸が荒くなっている。深呼吸をすればそれは落ち着いた。 「大丈夫?魘されてたよ」 「……うん」 「……まだ少し早いけど、もう起きる?」 「……起きる」 時計を見ると、いつもの起床時間より一時間も早かった。 体がぺたぺたする。 嫌な夢を見て汗をかいたらしい。シャワーを浴びたい。 「凪さん、シャワー浴びてきます。」 「うん」 心配そうな彼に、微笑みかける。 ただ昔の嫌な思い出を夢で見ただけだ。 「大丈夫です。怖い夢見ただけなんで。」 不安なことがあるから、こんな夢を見たんだろう。だから別に、悪いことは起きない。 そう自分に言い聞かせるように『大丈夫』を伝えて寝室を出た。

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