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第105話

いつもよりゆっくりとした朝を過ごして、凪さんと出社する。 車を降りて、エレベーターでフロアまで直通で行き、デスクに腰掛ける。 「中林さんはまだだね」 「そうみたいです」 「……本当に伝えて大丈夫?」 「大丈夫です。そもそも説明しないと理解してもらえないし。」 「そうだね。……本当に同席するの?」 「します。」 彼は過保護だから、俺が傷つくのではないかと不安らしい。 「朝起きた時から顔色悪いし……」 「大丈夫だって」 「無理しないで、休んでもいいからね。」 「……甘やかしすぎです」 不満を口にすると、彼は眉尻を下げる。 「だって、不安なんだよ。真樹が本当に傷つかないか……。」 「心配してくれるのは嬉しいです。ただ、社会人としての責任とか、マナーはしっかり守りたいので、そこまで踏み込むのは無しです。」 「……そうだね。ごめんね」 「ううん、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。」 そう話しているうちに中林さんがやって来た。 挨拶をして、専務は彼女に話をしに行く。 それから専務室に入っていった彼を見て、中林さんが静かに近寄ってきた。 「専務がご飯に誘ってくださったんだけど、何かあったの?」 「あ……えっと……」 「堂山君も来るって聞いたよ。あ、その時に話してくれる感じかな。」 「はい」 「ごめんね、焦っちゃった。じゃあ……えっと、今日もとりあえず一日頑張ろうね!」 「よろしくお願いします」 デスクに戻った彼女に後で暗い話を聞かせてしまうんだと思うと、申し訳ない。 罪悪感のような思いを引き摺って、仕事をこなす。 夕方になる頃には、今から嫌な過去を掘り返すことになる事と、話を聞かせる罪悪感で心が少し疲弊していた。

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