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第106話

仕事が終わり、向かうのはお高めの寿司屋さん。 中林さんは寿司が好きらしい。すごく嬉しいと俺にこっそり伝えてくるんだけど、多分凪さんは知っていてここを選んだんだろう。 「好きな物頼んでね。」 「いいんですか、専務!私容赦ないですよ」 「ははっ、もちろんいいよ。」 中林さんがメニューを見て興奮している。 「真樹も好きなの頼んで」 「えっ」 空間に沈黙が流れた。 まさか、中林さんの前で名前で呼ばれるとは思っていなかったから。 「い、今名前で呼びますか……」 「え、仕事は終わったから……ダメだった?」 ダメというか、恥ずかしい。 チラッと中林さんを見ると、どうしてか笑みを浮かべていた。 「私のことは気にせず、普段通りでどうぞ!」 「ほら、中林さんもこう言ってるよ。」 「……恥ずかしい」 凪さんも中林さんもニコニコ笑っている。 恥ずかしいのは我慢して頷いた。 寿司定食とそれぞれ飲み物を頼んで、飲み物が運ばれてくると話が始まった。 「中林さん、あの……決して気持ちのいい話じゃないんだ。」 最初にそう伝えると、彼女は「大丈夫」と言って微笑む。 「まず、真樹の性別のことなんだけどね。」 凪さんと目が合って、一度頷く。 すると彼はまず後天性オメガについて説明をし、それが俺だと話した。 中林さんは大きく目を見開いて、驚いている様子だ。 「そ、んなことってあるんですか……。後天性なんて、知らなかったです。堂山君、今までもし傷つけるようなことを言っていたなら、ごめんなさい。」 「えっ!そんな、何も!中林さんは本当に良くしてくれて、謝られることなんて何一つないです!むしろ、感謝しています。」 そう言って全力で手を左右に振る。 一息吐くと話は再開して、本題に入った。 話していくうちに中林さんの眉間には深く皺が寄る。 「──だからそれが解決するまでの時間、真樹には仕事を休んでもらおうと思ってる。もしくは、自宅でできる仕事を任せるつもりだ。けれどこれには中林さんの了承を得ないといけないと思って、今ここで話をさせてもらってるんだ。」 「もちろん、そうしてください!私も出来ることなら何だって協力します。堂山君は仕事熱心で、とても良い人です。そんな彼を傷つけるような輩は許せないです。」 カッと体が熱くなる。 そんな風に言ってもらえたことが無くて、嬉しさと照れが同時に襲ってきた。

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